東京工業大学(東工大)などは8月30日、電圧によって形状が変化する圧電体結晶について、原子の変位、単結晶領域の再配列などの複雑な現象が40ナノ秒の短時間に高速で起きていることを解明したと発表した。

同成果は、東京工業大学 舟窪浩教授、江原祥隆博士後期課程学生(研究当時)、安井伸太郎助教、名古屋大学 山田智明准教授、高輝度光科学研究センター 今井康彦主幹研究員、物質・材料研究機構 坂田修身ステーション長、ニューサウスウエールズ大学 ナガラジャン・バラノール教授らの研究グループによるもので、8月29日付の英国科学誌「Scientific Reports」に掲載された。

圧電体は、インクジェットプリンタや3Dプリンタ、カメラの手振れ防止機構などに用いられ、最近では、永続的に使用できる自立電源としてIoTセンサネットワークへの応用も期待されている。この圧電性は、電圧を加えることや機械的な力を加えることによって起きる結晶自身の伸びのほかに、ドメインと呼ばれる微小領域の結晶の向きの変化など複数の現象が同時に起きることが知られていたが、それぞれの現象がどのくらいの速度で起きるかはわかっていなかった。

同研究グループは今回、大型放射光施設SPring-8の高輝度放射光を用いた時間分解X線回折実験を実施。高輝度単色パルスX線を、最も広く使用されている圧電体であるチタン酸ジルコン酸鉛膜上に形成した電極に照射し、200ナノ秒幅のパルス電圧を印加して観察した。

この結果、電圧を加えると、結晶の伸びや電圧印加方向へのドメインの再配列等が起こっていることがわかった。またこの際、結晶の単結晶領域の傾斜角度が同時に変化していることも明らかになった。またこれらの複雑な現象が、測定システムの分解能40ナノ秒よりも速いスピードで同時に起きていることもわかった。

試料に電圧を印加した時に起きる結晶の構造変化の模式図。赤で示された結晶の伸び、青で示された結晶の一部が赤で示した結晶へ変化、青および赤で示された結晶の角度の変化といった複雑な現象が同時に起こっている (出所:東工大Webサイト)

今回の成果について同研究グループは、個々の効果を直接的に高速で測定できるようになったことで、チタン酸ジルコン酸鉛以外の物質における圧電性の発現機構の解明も進むことが見込まれると説明している。