Oracle Service Cloud導入の決め手は「顧客の利便性」

Oracle Service Cloudの導入のきっかけについて、営業マネージャーの福岡昭憲氏は、「今年7月にススキの原一の湯という新たな旅館をオープンしたことを機に、Webサイトをリニューアルすることにしました。これに伴い、Oracle Service Cloudの検討が始まりました」と説明する。

一の湯 営業マネージャー 福岡昭憲氏

一の湯の予約は、全体の約70%がオンラインから行われており、内訳はオンライン宿泊予約サイト経由が約30%、自社Webサイト経由約40%となっている。自社のWebサイトからの予約の増加に向けて、Webサイトの拡充の必要に迫られていた。

一方、顧客からの電話を受けるコールセンターの負荷も高く、繁忙期には、限られた人数のオペレーターでは電話に対応しきれない場合もあったという。

そこで、人工知能機能によって問い合わせ頻度の高い質問への回答を優先的に表示する「Oracle Service Cloud」が導入されることとなった。同サービス導入の決め手は、「顧客が便利になることだった」と福岡氏は語る。

Oracle Service Cloudは、カスタマーサポートの支援を目的として、ナレッジベース「iKnow」、Webセルフサービス、マルチチャネルの問い合わせの一元管理、インシデント管理、分析レポートなど、カスタマーサービスとサポートサービスのライフサイクルを網羅する機能を提供する。

「iKnow」は、人工知能技術によって質問の予測や回答検索の最適化を行う。Webセルフサービスでは、自己学習機能によりWeb上の動向を自動的に分析し、コンテンツのお役立ち度を自動的にスコアリングしてコンテンツの関連性を自動的にひもづける。

意外な検索ワードは「Parking」と「Tattoo」

これまでは、日本語版と英語版の静的なFAQがWebサイトに設けられていたが、「20項目くらいありましたが、どの程度使われていたのかは把握していませんでした」と福岡氏は語る。

現在は、Oracle Service Cloudの導入により、日本語の回答は300、英語の回答は50まで増えている。「英語の回答は200くらいまで増やしたい」と福岡氏。また、どの時期にどのキーワードで検索したかといったことを分析することも可能になった。

また、Oracle Service Cloudの人工知能機能の活用により、今まで想定していなかった質問が検索されていることがわかった。例えば、訪日外国人は公共の交通機関を利用する人が多いと思っていたが、「Parking(駐車)」という検索が多いことが明らかになったことから、駐車場の情報を加えたそうだ。

また、「Tattoo」という検索も多かったという。一般に、温泉では「刺青お断り」のケースが多いが、一の湯では、どのような回答を用意しているのだろうか。

「基本的に、部屋に専用の温泉がついているので問題ありません。また、大浴場でも"禁止"とは明言しておりません。実のところ、国内のお客さまの印象次第であり、最近は寛容になりつつあると感じます」

なお、2回以上検索された質問に関しては、回答を用意することにしており、検索して回答が表示されないといった状況をゼロにしていくことを目標としている。

このように、これまでは用意されていなかったけれど、実は知りたい人が多い質問への回答をWebサイトで提供することで、これまでとりこぼしていた顧客の獲得につながっていくのではないだろうか。

新商品「コーヒー」の開発にも貢献

一の湯では、コールセンターで電話やメールによる問い合わせに対応している。コールセンターには常時5、6人いて、その半分くらいが英語への対応が可能だが、残業が多く、生産性の向上が課題となっていた。Oracle Service Cloudの導入により、徐々にではあるがメールの問い合わせ、残業が減ってきているという。

また、小川氏は商品開発を担当しているが、FAQのデータを商品企画の参考にしているという。今年5月には「湘南ゴールドドレッシング」、今年7月には、銀座「TORIBA COFFEE」と共同開発した「一の湯珈琲」の販売を開始した。

福岡氏は、Oracle Service Cloudを導入してから、Webサイトのセッション数が2割以上増えており、「想像以上の効果」と話す。ただ、予約率への影響については、これから分析していく。

インバウンドの需要については、「先が見えない。だからこそ、Oracle Service Cloudで収集したデータを活用することで、何かしらの手が打てるかもしれない」と話す福岡氏。

宿泊費の大幅な値下げ、既存のサービスの廃止など、競合とは一線を画した取り組みによって、老舗らしからぬ「安くて気軽に行ける旅館」を実現してきた一の湯。今回、クラウドサービス、人工知能という新たな武器を手に入れたことで、さらなる成長を果たすことができるのではないだろうか。

ロビーには訪日外国人向けの英語版のパンフレットがたくさん置いてある