東北大学は8月28日、銅を主成分とする形状記憶合金の単結晶部材が量産できる製造プロセスを開発したと発表した。

同成果は、東北大学大学院工学研究科 大森俊洋准教授、貝沼亮介教授、京都大学大学院工学研究科 荒木慶一准教授、古河テクノマテリアル特殊金属事業部 喜瀬純男課長らの研究グループによるもので、8月25日付の英国科学誌「Nature Communications」に掲載された。

建物に用いる材料に関して、大きな変形でもすぐに形が元に戻る「超弾性」を有する形状記憶合金を、地震時に変形が集中する部位で鉄筋の代わりに使おうとする試みが、米国を中心に行われている。しかし現在最も生産量が多く、医療分野で広く利用されているニッケル-チタン形状記憶合金では、建物の耐震性向上に用いる特殊部材で良好な超弾性特性の実現は難しく、また実現できたとしても部材コストが非常に高価になるという課題があった。

同研究グループは、「銅-アルミ-マンガン形状記憶合金(銅系形状記憶合金)」を建物の耐震性を高める特殊部材として用いる研究を進めてきており、これまでに、結晶粒(=単結晶)の境目は破壊の起点となるため、大地震時の多数回の変形に耐えるには、部材の単結晶化が必要不可欠であることがわかっていた。

今回の研究では、銅系形状記憶合金において高温からの冷却と加熱を繰り返すサイクル熱処理で生じる「異常粒成長現象」のメカニズムを解明。これをもとに銅系形状記憶合金の単結晶部材を製造する熱処理プロセスを開発し、直径1.5cm、長さ70cmの単結晶棒材の製造に成功した。

ひとつの結晶粒のみからなる単結晶の形状記憶合金が量産できるということは、当初まったく予想されていなかったもので、同研究グループは、金属学の常識を覆す画期的な成果であると説明している。実用面では、単結晶形状記憶合金部材の製造に要するコストが数百分~数十分の1と低減でき、また変形回復や疲労などの特性を数倍から数十倍に向上できるという。

異常粒成長によりひとつの結晶粒が粗大化する様子 (出所:東北大Webサイト)

単結晶形状記憶合金部材の変形回復の様子 (出所:東北大Webサイト)