理化学研究所(理研)は、さまざまなヒト細胞で発現するマイクロRNA(miRNA)を網羅的に記載したアトラス(地図)を作成したと発表した。同データベースはインターネット上で公開されており、誰でも利用可能。miRNAの発現制御の解明につながる大きな手がかりとして、今後のmiRNA研究を加速させることが期待できるとしている。

同成果は、同社ライフサイエンス技術基盤研究センターゲノム情報解析チームの実習生(研究当時)であるデレック・デ・リー氏、ゲノムデータ解析アルゴリズム開発ユニットのミヒル・デ・ホーン ユニットリーダー、トランスクリプトーム研究チームのピエロ・カルニンチ チームリーダー、予防医療・診断技術開発プログラムの林崎良英 プログラムディレクターと、ハリー・パーキンス医療研究所のアリスター・フォレスト 教授らの国際共同研究グループによるもの。詳細は、国際科学雑誌「Nature Biotechnology」(オンライン版)に掲載された。

発現パターンの類似度をもとにmiRNA同士の関係をネットワークとして描画した (出所:理化学研究所Webサイト)

すべての生物は、生命の連続性を維持し細胞機能を発揮するための基盤としてDNA、RNA、タンパク質という鎖状の重合体を用いている。生物学の歴史を紐解くと、20世紀前半にまずDNA(遺伝子)とタンパク質(酵素)の対応関係が示された。その後、DNAとタンパク質を仲介するRNAの役割が明らかになり、タンパク質合成装置であるリボソームを構成するrRNA(リボソームRNA)、DNAの一部として存在する遺伝子配列をリボゾームへと伝えるmRNA(伝令RNA)、mRNAに写し取られた遺伝暗号をタンパク質配列へと解読するtRNA(運搬RNA)などが発見された。

しかし近年、これらのどれにもあてはまらないRNAが存在することが明らかにされ、注目を集めている。ノンコーディングRNA(ncRNA)と呼ばれるこれらのRNAは、mRNAよりも長いものからマイクロRNA(miRNA)のように短いものまで多岐にわたる。個々のncRNAが果たす役割も多種多様であり、理研が主催する国際研究コンソーシアム「FANTOM」をはじめ世界中の研究者が、その機能解明に取り組んでいる。

miRNAは長さが21~23塩基と短く、mRNAと結合して遺伝子の活性を抑制する機能を果たす。ncRNAの中では比較的早くから研究が進み、長い前駆体RNAから切り出されて産生される過程や、標的となるmRNAとの結合により遺伝子活性を抑制する仕組みなどが詳しく調べられている。がんなどの疾患に関わる遺伝子の多くがmiRNAの標的とされており、基礎研究のみならず医学研究においても注目されている。

今回、理研を中心とした国際共同研究グループは、さまざまなヒト細胞で発現するmiRNAを網羅的に記載したアトラスを作成した。研究グループは、同データベースに対して、これまで解析されていなかった細胞で発現しているmiRNAや、細胞種特異的に発現・抑制されているmiRNAを検索することが可能になるなど、miRNAに注目している研究者にとって必須のデータベースとなり、今後のmiRNA研究を加速させることが期待できると説明している。