東京大学は、東京大学大学院農学生命科学研究科の平山和宏准教授らの研究グループ、日清ペットフードおよび日本獣医生命科学大学の藤澤倫彦教授らの研究グループが、5つの年齢ステージ(離乳前、離乳後、成年期、高齢期、老齢期)におけるネコの腸内細菌叢を解析し、腸内細菌叢が変化(老化)することを見出したことを発表した。この研究成果はオープンアクセスの科学ジャーナル「PLOS ONE」に掲載された。

ヒト・犬・猫で重要な腸内細菌(出所:東大ニュースリリース※PDF)

近年、ペットの健康維持に注目が集まっており、そのひとつが「腸内環境の改善」であるが、ペット、特にネコにおける腸内細菌叢については研究が十分になされていなかった。

東大の平山准教授らや日清ペットフードの研究グループは、イヌにおける加齢に伴う腸内細菌叢の変化を検討し、本年1月にその成果を学術論文として報告したが、引き続きネコにおいてもヒトやイヌと同様に加齢に伴う腸内細菌叢の変化(老化)が見られるかを、日本獣医生命科学大学の藤澤倫彦教 授らを加えて調査した。

研究グループは、腸内細菌叢の加齢性の変化を調べるため、5つの年齢ステージ(離乳前、離乳後、成年期、高齢期、老齢期)のネコ(各ステージ10頭)から糞便を採取し、含まれる細菌の種類や数の全体像を知るために培養法を用いた解析を行った。その後、 ヒトや動物の健康に重要な役割を持つと考えられているビフィズス菌と乳酸桿菌について、定量的 PCR法を用いたより詳細な解析を行った。

その結果、加齢に伴う腸内細菌叢の変化(老化)が認められたが、この変化はヒトやイヌで知られているものとは異なるものであった。具体的には、ネコの腸内細菌叢にはどの年齢ステージにおいてもBacteroidaceae科やEubacterium属グループの細菌が多い一方で、ビフィズス菌(Bifidobacterium属)や乳酸桿菌(Lactobacillus 属)は優勢菌ではなく、代わりにEnterococcus 属グループ(腸球菌)の細菌が多いことがわかった。

また、高齢になるとClostridium属グループの細菌が増え、Enterococcus属グループの細菌が減ることもわかった。高齢のネコで増えたClostridium属グループの細菌には、悪玉菌と呼ばれる細菌も含まれていることが知られている。

ヒトの腸内においてはビフィズス菌が善玉菌の代表であることが知られており、イヌにおいては乳酸桿菌がその役割を担うことを示唆する報告がなされている。

今回の研究で、ネコにおいてはビフィズス菌、乳酸桿菌のどちらも優勢ではなく、同様の位置を占めるのは腸球菌であることが明らかになった。

近年、ヒトでは腸内細菌叢を健康に保つため、「老化」とともに減少するビフィズス菌を補うことを目的としたプロバイオティクスが広く使用されている。今回の研究により、ネコの腸内細菌叢の構成やその加齢に伴う変化(老化)の様子は、ヒトやイヌとは大きく異なることが明らかとなり、ネコにおいては腸球菌が優勢な有用菌であることが示唆された。

この発見はネコにとって適切なプロバイオティクスの開発に繋がる可能性があり、ネコの健康改善法の更なる進歩が期待される。