米ローレンス・バークレー国立研究所は、熱伝達のほとんどないペロブスカイト半導体を発見したと発表した。電気伝導性については高い状態が保たれることから、電子デバイスやタービンエンジンなどでの熱の蓄積を抑制する技術に応用できる可能性があるという。研究論文は、「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」に掲載された。

ペロブスカイト半導体の結晶構造。左がヨウ化セシウムスズ、右がヨウ化セシウム鉛(出所:バークレー研究所)

報告された材料は、ヨウ化セシウムスズ(CsSnI3)のナノワイヤで、ハロゲン化物系ペロブスカイト半導体の一種である。単結晶材料としては熱伝導率が最も低いレベルにあり、論文によると、熱伝導率0.38W・m-1・K-1(ワット毎メートル毎ケルビン)程度という測定値であったとされている。

また、CsSnI3の電気伝導率は、282S・cm-1(ジーメンス毎センチメートル)と報告されている。正孔移動度も、394cm2・V-1・s-1(平方センチメートル毎ボルト毎秒)程度と高い。低い熱伝導率と良好な電気伝導率が両立していることになる。

CsSnI3以外のハロゲン化物系ぺロブスカイト半導体でも、ヨウ化セシウム鉛(CsPbI3)で0.45W・m-1・K-1程度、臭化セシウム鉛(CsPbBr3)で0.42W・m-1・K-1程度といった低い熱伝導率が報告されている。

このような熱電特性は当初、結晶構造のカゴの中に入ったセシウム原子が動くことによって現れると考えられていた。こうしたカゴ構造中の原子の動きは、これまで他の材料で観察されており、この動きによって熱伝達が妨げられることがあるためである。

しかし現在では、ペロブスカイト半導体の熱電特性は、セシウム原子によるのではなく、材料の結晶構造そのものに起因する集団的な原子の振動運動に起因するものであると考えられるようになっている。結晶構造中の原子間の距離が集団的に伸び縮み運動することによって熱が拡散しにくくなるのだという。伸び縮み運動しているあいだも結晶構造の規則性は保たれているので、電気の流れについては妨げられずに保たれると考えられている。

ペロブスカイト半導体ナノワイヤの熱伝導率測定用デバイス(出所:バークレー研究所)

上の電子顕微鏡写真は、ぺロブスカイト半導体ナノワイヤの熱伝導率を測定するためのデバイスを写したものである。固定用の材料で2つの島状の部位を作り、これらの島のあいだにナノワイヤの橋を渡した構造となっている。実験では、一方の島に熱をかけたときに、ナノワイヤを通って他方の島に熱がどれだけ伝わるかを精密に測定している。

研究チームは、CsSnI3を合金化し、熱電特性をさらに向上させることを次の研究課題に挙げている。シリコン半導体におけるドーピングのような考え方であり、少量の異物を添加して性能を向上させるということだが、こうした手法での研究はペロブスカイト半導体についてはまだあまり進んでいないという。

同材料の2つの主要な応用分野としては、冷却用途と熱電変換用途が挙げられている。特にCsSnI3は、熱電変換材料としてよりも、センサなどのデバイス冷却用塗膜のほうが実用化しやすいと考えられるという。