ところが、そんなモバイル業界でのFlashの発展に待ったをかけた人物がいた。それは、当時AppleのCEOであったSteve Jobs氏。2010年4月に「Thoughts on Flash」という書簡を公開し、6点にわたって「iPhoneにFlashを搭載しない理由」を力説した。

JobsのFlashに対するスタンスを示した「Thoughts on Flash」のページ

理由の1つ目は、「オープンでないこと」。Flashの発展や改善はAdobeによってコントロールされており、HTMLやCSSをはじめとするオープンスタンダードではないということだった。2点目は、「フルウェブ体験」。当時AdobeはiPhoneでFlashをサポートしないAppleに対して、「ウェブ体験を損ねている」と批判してきた。しかしJobs氏は、ビデオやゲームはiPhoneではアプリとして体験することができ、決してウェブ体験を損なってはいない、と反論している。

3つ目は、「信頼性、セキュリティ、パフォーマンス」。そして4点目の「バッテリーライフ」と合わせて、モバイルデバイスに最適化されたソフトウェアではない点を指摘している。5点目は、「タッチ」。つまりマウスで操作するPC時代のソフトウェアであり、スマートフォンによってもたらされたタッチデバイス時代のものではない、との指摘だ。

そして、6点目。これが本音にも思えるが、iPhoneやiPad上で、App Storeを介さないアプリ開発をもたらしたくない、というものだった。結果として、AppleはiOS上でサポートしないまま、Flashは2020年で終焉を迎えることになる。

この書簡では、オープンさやセキュリティ、バッテリーライフなどの問題点を絡めつつ、「AppleはApp Storeのビジネスを守りたいんだ」という主張を展開したと言っても良い。Flashがそうであるように、AppleのApp Storeを通じたアプリ開発もまた、オープンではない。しかし、Appleのハードウェアとソフトウェアで動作する、Appleが作ったプラットホームであることから、必ずしもオープンでなくてもよいじゃないか。そんな本音が隠れた書簡だったと振り返ることができる。