産業技術総合研究所(産総研)は7月27日、ガラスや多くのシリコーンの基本単位構造であるオルトケイ酸(Si(OH)4)の結晶を作製、19世紀のシリカの存在の発見、ならびにアルコキシシランの加水分解によるオルトケイ酸の重合物の存在について言及されて以降、謎のままとなっていた分子構造の解析に成功したことを発表した。

産総研 触媒化学融合研究センター ヘテロ原子化学チームの五十嵐正安 主任研究員、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、日本原子力研究開発機構、J-PARCセンター、総合科学研究機構などで構成される共同研究グループによるもの。詳細は、英国の学術誌「Nature Communications」に掲載された。

無機ケイ素化合物(ガラス、シリカ、ゼオライトなど)や、有機ケイ素化合物(シリコーンなど)の基本単位であるオルトケイ酸は、従来、アルコキシシランSi(OR)4)や塩化ケイ素(SiCl4)を加水分解することでその発生が観測されていたが、その後、重縮合し、最終的にはシリカ(SiO2)になってしまうため単離された例はほとんどなかった。

オルトケイ酸の歴史とその用途。現代では、ガラスのほか、シリコーンやゼオライトなど幅広い分野で活用されているが、さまざまな分子がまざった状態

今回、研究グループは、加水分解時に水が存在することが不安定さを招いているのではないか、という仮定の下、実験を実施。有機合成の手法である、水を用いないアルコール合成法を無機合成に適用することで、収率96%で合成に成功したほか、テトラブチルアンモニウム塩(nBu4NX、X=Cl,Br)を反応溶液に加えることで、単結晶を得ることに成功したとする。

従来の加水分解法の問題点と、今回開発された水を使わないオルトケイ酸の合成法。下段は従来手法と今回開発された手法の比較とオルトケイ酸の分子構造

また、同様の反応により、オルトケイ酸の2量体、環状3量体、環状4量体なども合成できることを確認。五十嵐研究主任は、「オルトケイ酸の詳細な構造が明らかになった以上に、それを安定的に入手する手法ができたことの意義は大きい」と、今回の成果を強調する。

今回の手法を使うことで、オルトケイ酸の2量体、環状3量体、環状4量体も合成できることを確認。構造の解明することにも成功した

従来のガラスやシリコーンなどは、さまざまな分子が混ざり合って形成されていたが、今回の成果により、単一の分子による材料を構築することが可能となる。そのため、例えば、極薄ながらスチールウールよりも硬いガラスの実現や、丸めることができるガラス、オルトケイ酸の分子が酸素や水よりも小さいことから、それらの透過を完全に遮断できるバリアフィルムやOリングなどの実現可能性が高まることとなる。

なお、製造コストについても、現在、低コストな合成手法の開発を進めており、これが完成すれば、安定的かつ安価にオルトケイ酸を提供できる見通しとのことで、今後、同材料を活用した新規ケイ素材料の創出につなげたいと研究グループでは説明しているほか、植物、特に稲などは土壌からオルトケイ酸を吸い上げ、シリカ成分を溜め込むことが知られており、そうしたシリカの吸収メカニズムの解明にも貢献できる可能性があるとしている。

五十嵐主任研究員お手製のオルトケイ酸の分子構造モデル。左が基本構造、中央が2量体、右が環状3量体