技術は目まぐるしい速度で進化します。これは称賛されるべきことであり、新たな技術は積極的に活用していかなければなりません。それにより、接続性や安全性をさらに向上させる素晴らしい技術が生み出され、新たな科学的成果も得られるようになります。また、それまで不可能だと思われていたことが可能になります。このような進化による影響は、狭く垂直的な1つの市場にはとどまりません。あらゆる業界にメリットがおよび、すでに市場で確立されたビジネスを展開している企業にも、並外れた破壊力と潜在的な成長の機会がもたらされます。

このような状況下では、ビジネス上のインパクトを生み出さなければならないという大きなプレッシャーにさらされることになります。また、乗り越えなければならない課題の大きさに圧倒されそうにもなります。ビジネスモデルを一変させることなく、将来の技術に対して多大な投資を行いながら成長を促進するにはどうすればよいのでしょうか。多くの企業は、非常に専門性が高く、時にまったく畑違いな領域の知識や技術を必要とする数多くの分野に投資を行うべく、慎重に歩みを進めようとします。しかし、そのために必要なコストは膨れ上がるばかりです。それに対し、驚くほど目的が明確で、何のしがらみも持たない小規模な新興企業であれば、すでに固定的なスタイルが確立された競合企業では太刀打ちできないような方法で新たな技術を活用することができます。

では、どうすれば自らを破壊から守ることができるのでしょうか。どのようにすれば、ビジネスに必要なコストを劇的に増加させることなく、革新を進めることができるのでしょうか。こうした多くの疑問は、1つのシンプルな問いに帰着します。それは、「現在使用しているツールに安心を感じるか」というものです。個人的な経済状況の面から見た安心なのか、キャリアの面から見た安心なのか、将来のエンジニアリングシステムの面から見た安心なのか、それぞれに観点は異なっていても、この質問に帰着するということです。例えば、インダストリアルIoT(IIoT)は、ネットワーク接続の新たな可能性、新たな時代を切り開くものです。その一方で、使い方を誤れば深刻な問題が生じるおそれのある技術でもあります。将来のシステムを最も安全に設計できるよう準備するためには、どのようなソフトウェアを選択すべきなのか的確に理解しなければなりません。そのためには、数年前の状況を思い返してみるとよいでしょう。

2005年までの30年間、技術は、Intelの共同創設者であるGordon Moore氏が提唱した1つのシンプルな見解に基づいて進化していました。その見解こそが「ムーアの法則」です。これは、1平方インチ当たりに集積されるトランジスタの数は18か月ごとに倍になるというもので、直近の実績に基づいた予測でした。半導体の集積度は線形的に増加していましたが、その後、指数的に増加するようになりました。時を待たずして、多くの半導体メーカーのCEO(最高経営責任者)らが、その後数年間にわたる動向について語り始めるようになりました。つまり、並列処理を実行可能なコアの数が主要なテーマになったのです。IntelのCEOを務めるPaul Otellini氏は、5年以内に80コアのチップを開発すると公言しました。ただ、より高い処理能力、より小さな遅延に対する需要は高まる一方でした。そこで、従来型のプロセッサの代替となる処理用ファブリックが登場しました。最初に普及したのはFPGAです。ソフトウェアでタイミングを定義し、非常に複雑な低レベルのプログラミング言語を使用しなければなりませんでしたが、FPGAは大きな人気を博しました。続いて、従来からのプロセッサとFPGAが1つのチップに統合されるようになり、ヘテロジニアスな処理が実現されるようになりました。

このようなプロセッサのアーキテクチャが爆発的に普及したことから、新しいプログラミング環境やプログラミング言語が次々と誕生しました。オープンソースが流行し、いずれも好機をうかがいながらも、最終的には廃れてしまいました。そして、当然のことながらプロセッサをいかに効率良くプログラムするかはユーザ自身が考えなければなりませんでした。

私たちは未来を見据えなければなりません。処理能力の爆発的な増加は、私たちをハイパーコネクティビティの世界へといざないます。この世界は、エンジニアリングシステムがより分散化されることに伴い、これまで以上に多くのネットワーク接続によって実現されていきます。5G(第5世代移動通信)やIIoTといったトレンドは、インフラ、交通、消費者ネットワークをつないでいき、間違いなく世界中の人々の生活を豊かにします。今はまだそこまで達していませんが、あらゆるエンジニアリングシステムの側面はソフトウェアによって定義されるようになるはずです。また、ハードウェアが完全にコモディティ化し、システムを区別する要素はロジックを定義するIP(Intellectual Property)だけという状況が訪れる日もそう遠くはないでしょう。

このように、ソフトウェアに大きく依存する日は間違いなく訪れます。それに対し、多くのテスト/計測ベンダの対応は必ずしも俊敏ではありません。現在は、エンジニアリング関連のコミュニティを支援するソフトウェア環境が市場に提供されるようになったという段階です。しかも、それらの環境はある程度までしかユーザを導いてはくれません。業界で進化が続くことに伴い、コネクテッドシステムの設計に使われるツールは、以下に示す4つの課題に対応する必要があります。

  • 抽象化による生産性の向上
  • ソフトウェアの相互運用
  • 包括的なデータアナリティクス
  • 分散システムの効率的な管理

次ページでは、各課題について順に説明していきます。