日本電信電話(NTT)は7月18日、シリコンフォトニクス技術を用いた光変調器にインジウムリン系化合物半導体を融合した小型・低消費電力・低損失な光変調器を開発したと発表した。同成果は、7月17日付けの英国科学誌「Nature Photonics」オンライン版に掲載された。

光通信用半導体デバイスの主な材料であるインジウムリン(InP)系化合物半導体は、基板サイズの制限などから、マイクロプロセッサなどに使われているシリコンと比較すると大量生産に適した材料であるとはいえない。したがって、シリコンを用いて光デバイスを作製することが持続的な光通信技術の発展に欠かせないと考えられており、特に送信素子のキーデバイスであるマッハツェンダー光変調器をシリコンフォトニクス技術で作製することが検討されている。

マッハツェンダー光変調器は、位相変調領域の屈折率を電気信号で変化させて、出力光の位相と強度を変調するもので、このときの変調効率は、変調強度を最大値から最小値へ変化させるために必要な電圧(半波長電圧)と、位相変調領域長の積で表される。素子の損失が大きいとレーザーからのバイアス光を大きくすることが必要になることから、光変調器の損失も消費電力に関わる重要な性能指標となる。

シリコンは、ニオブ酸リチウムやInP系化合物半導体など他の材料と比較して光を変調するには不向きな材料であり、変調効率を高くすると吸収損失が増加するというトレードオフがあることが課題となっていた。今回の研究では、シリコンフォトニクス技術にInP系化合物半導体とシリコンの異種材料融合技術を適用したキャリア蓄積型のマッハツェンダー光変調器を開発することで、このトレードオフを打破した。

同光変調器では、poly-Siよりも変調効率が高く光損失も少ないInP系化合物半導体であるn型InGaAsP薄膜を用いることで、シリコンフォトニクス技術との親和性を保ちながら高効率・低損失化を同時に実現。作製したマッハツェンダー光変調器は、変調効率を表す半波長電圧と変調領域の長さの積が0.09Vcmとなった。これはシリコンのキャリア引抜型光変調器の約10倍の高効率である。また、位相変調領域長0.25mmの素子で挿入損失1dB(透過率約80%)の低損失化も同時に実現している。さらに毎秒32Gbitの変調を行い、100Gbitイーサなどに適用可能であることも確認されている。

NTTは、同技術を利用することで、今後予想されるあらゆる伝送距離でのトラフィックの増大に対応できる複数の光変調器と光フィルタを含む光集積回路を、低コスト・低消費電力に実現できると説明している。

マッハツェンダー光変調器における変調効率と損失 (出所:NTT Webサイト)