NTTデータ経営研究所は、実験により、手書きによるコミュニケーションは、タイプされた文字と比較して読み手に対して「思いが込められている」というポジティブな印象を与えうることがわかったと発表した。

実験に使用した手紙の例。a)「ゆっくり時間をかけて心をこめて書いてください」という指示で書かれた手紙。 b)「自分の書ける最高のスピードでできるだけ素早く書いてください」という指示で書かれた手紙。c)「指定された文章をタイプしてください」という指示で書かれた手紙。(出所:NTTデータ経営研究所プレスリリース)

同研究は、NTTデータ経営研究所、千葉工業大学知能メディア工学科山崎研究室、東京大学大学院総合文化研究科酒井研究室、王子製紙、ゼブラ、DIC、日本能率協会マネジメントセンターが共同で組成した「アナログ価値研究会」によるもの。

デジタルデバイスが普及し便利に使われている一方で、アナログ製品を用いた行動は、記憶が定着しやすいなどの認知的側面での利点があることを示唆する研究が世界的に報告されているという。同研究会は、アナログ価値、つまり「手書きの方が、印刷されたタイプ文章に比べ、書き手の想い(時間をかけてくれたなど)が相手に伝わる」という筆記のコミュニケーション上のユニークな価値を科学的に検証することを目的として、手書きの価値の実証実験を行った。

同実証実験では、書き手として、男女2名ずつ計4名に対し「あなたの身近な友人が誕生日を迎えることを想像してください。その人に向けて誕生祝いのメッセージカードを書いていただきます。」と指示し、指定された文章で「心を込めた(時間をかけた)手紙」、「速記した手紙」、「タイピングされた手紙」の3種を書いてもらった。また、書き手の性格(自己申告)をTen Item Personality Inventory(TIPI-J)の質問10項目について7段階で評価を行った。次に、読み手として、被験者40人(20~24歳、平均年齢22.33歳の男性20名、女性20名)に対し、それぞれの手紙の読了後評価を行った。 読み手に対する取得指標としては、「読むのにかかった時間」、「思いがこめられているか、といった手紙の印象(VAS 1-100で定量的に評価)」、「可読性、美しさ、丁寧さといった視覚的特徴(VASで評価)」、「手紙を書くのにかけた時間の推定(秒)」、「書き手の性格推定(TIPI-J 10項目 7段階評価)」を指標とした。

実験の結果(出所:NTTデータ経営研究所プレスリリース)

結果、読み手による手書き文字に対する運動(コスト)情報の推定としては、読み手は「心をこめた手紙」で、速記した手紙と比べて「時間がかかった」と推定した。また、「心をこめた手紙」に対して、速記した手紙と比べて「思いが込められている」と感じた。同時に、「タイピングした手紙」の方が、速記した手紙と比べて「丁寧である」とも感じていた。

また、実際の書き手が報告した自身の性格尺度の得点と、読み手が推定した性格尺度の得点(10項目同士)の類似性を検証するために、得点間の相関係数を算出し、分散分析と多重比較により分析した。結果、「心をこめた手紙」では他の条件と比較して高い相関係数が見られた。つまり、丁寧に書いた場合では、書き手の性格パターンをより正確に推定できたという結果になった。

手紙や履歴書、志望動機書など対人コミュニケーションにおいて漠然と「手書きが良い」と経験的に言われてきたが、今回実施した実験で示唆されたのは、単純に「手書き」であるという事実だけでなく、「時間と手間をかけてくれている」ということを読み手が感じることが書き手へのポジティブな印象や、書き手の人となりの理解につながっているということがわかった。一方で、タイピングによる活字でのコミュニケーションは、短時間で入力でき、かつ「読みやすく丁寧である」という印象を与えるので、一定の伝達品質を有する「コストパフォーマンス」の良いコミュニケーション手段とも言えるため、目的や状況に応じて、デジタル・アナログ両者の恩恵を上手に使い分けていくことが必要であると言えるという。

今後、同研究会では、「紙に印字された媒体」の価値の検証など、アナログに関わるユニークな価値に関する探求と実証実験を継続的に推進し、具体的な成果の学術的・社会的発信を行っていくという。また、アナログ価値に関心があり、同研究会の趣旨に賛同する新たな民間企業の参加については継続的に募集していくということだ。