現事業者の利益構造が継続される問題

最後に心配なのは、地元連合を標榜する現事業者=北海道空港(HKK)の動きである。HKKは7月1日に会社分割を行い、新千歳空港ターミナルビルに空港事業を移管した。今後HKKとして、株主から年内に道・市が抜けた上で、7空港の運営権取得に参画することとなる。

福岡空港では現在、運営権者の選定プロセスに入っている

一方、報道等では「HKKには不動産事業などを残し」とされているが、4月の日経報道ではさらに、「キャストなどの空港関連会社もあるが、これらは新会社に合併させずに存続させる方向」とされていた。筆者が心配するのは、この通り実行された場合、民営化プロセスに大きな歪みが生じるのではないかという点だ。

福岡空港の場合、空港事業者であった福岡空港ビル(FAB)の事業・出資形態をそのままに、FABを民間だけで100%保有するホールディング会社を「上部に」設置している。関連事業会社株式をFABが所有したままであることで、この場合、新たな運営権者はFABが行っている事業を全て継承するため(第三者が行っている給油事業は除く)、地元連合が敗退した場合には、FABのホールディングス会社は解散して終わりとなる。

ところが、HKKの場合は空港事業が他社に移ったとしても、HKKにぶら下がる関連会社が引き続きHKKの所有となっているならば、ここから上がる収益はHKKが享受することになる。具体的には、グラハンのキャスト、免税販売の蒼生舎、広告のえんれいしゃ、物販の耕人舎などがそれにあたり、筆者の見立てでは5億円超の利益をあげていると思われる。

これでは運営権の帰趨(きすう)に関わらず、現在のHKKの持つ空港から上がる一部収益(権益)を現経営に残すことになり、他の民営化空港事例に照らしても極めて異例である。さらに言えば、黒字会社をHKKに残すことでターミナルビル会社単体の収益性を減じ、これがひいては新千歳空港運営権の価値を減じることになる。

つまり、HKK関連の会社が仮に敗退した場合でも、国庫に入るべきコンセッション対価の一部がHKKに入るわけだ。国はこのようなことがないよう、「運営権対価の対象となるべき空港関連事業」を包括的に定義した上で、空港事業に紐づく関連会社をターミナル会社の子会社に付け替える等の措置を講じて全て新運営権者に渡すことで、運営権対価価値を最大化するスキームを構築すべきである。

HKKの株主への対応も

また、分離されたターミナルビル会社は、資本金が1億円に設定されている。福岡空港ビルと同等の価値と評価されたとすると、新たな経営権者がこれを取得すれば、HKKに450億円の株式売却益が発生するわけだが、これはどのように分配(株主還元)されるのだろうか。

HKKの株主は、「新千歳空港事業を運営する会社に出資」したわけなので、他者が空港を運営するのであれば、空港事業以外を運営するHKKへの出資を続ける意味もなく、現有資産には含み損も懸念されることから株主説明責任も生じる。従って、大方の株主は先に退出している自治体と同様の時価(総額450億円をシェア配分したもの)での買い取りを求めることになるだろう。

この場合、HKKに残る資産は空港に関連しない不動産業などの関連資産だけになり、残る事業を続けるためのキャッシュの確保も新たな問題となる。これらを考慮すると、HKKがこれまで手をつけた周辺事業については、もし他者に空港の経営権が移行する場合は、その時点で整理清算するなどの検討準備も必要になるのではないだろうか。

北海道7空港民営化の難しさは、広範であることだけが理由ではない

心配ばかり列挙してしまったが、北海道7空港民営化は他空港事例と比べ格段に広範かつ奥の深い事業であり、空港運営から地方の活性化(周辺開発や陸空の交通網整備も含まれる)という大きな課題に本格的に突入する。そのため、応募企業群にとっての参画意義は大変大きいものがある。透明で公正な競争の元に最適な新運営権者が選定されるよう、空港管理者・関係者による適切な進行管理と環境整備が期待される。

筆者プロフィール: 武藤康史

航空ビジネスアドバイザー。大手エアラインから独立してスターフライヤーを創業。30年以上に航空会社経験をもとに、業界の異端児とも呼ばれる独自の経営感覚で国内外のアビエーション関係のビジネス創造を手がける。「航空業界をより経営目線で知り、理解してもらう」ことを目指し、航空ビジネスのコメンテーターとしても活躍している。スターフライヤー創業時のはなしは「航空会社のつくりかた」を参照。