日本HPは、業務用3Dプリンティングソリューション「HP Jet Fusion 3Dプリンティングソリューション」を発表した。3Dプリンタ「HP Jet Fusion 3D 3200」および「同 4200」、材料の充填やパーツの冷却、取り出しなどを行う「HP Jet Fusion 3Dプロセッシングステーション」で構成。HPの30年以上におよぶプリンティング技術と、高度な材料に関する知見を生かして製品化したもので、既存の3Dプリンティングによる造形方式と比較して、最大10倍のスピードと、半分のコストで、品質の高いパーツを生産することができる。同社では、「設計から試作、製造までのものづくりの工程に変革を起こすことができる」と意気込むが、その背景について米HP.3Dプリンティングビジネス担当のステファン・ナイグロ プレジデントと、日本HPの岡隆史社長に話を聞いた。

HP Jet Fusion 3D 4200 プリンタと、ナイグロ プレジデント

HP Jet Fusion 3D 4200 プリンタを開けたところ

ビルドユニットを抜き出すところ。これをプロセッシングステーションに移動させて最終作業を行う

HP Jet Fusion 3Dプロセッシングステーション

--HP Jet Fusion 3Dプリンティングソリューションの特徴はなんですか?

米HP 3Dプリンティングビジネス担当のステファン・ナイグロ プレジデント

ナイグロ氏(以下、敬称略):HP Jet Fusion 3Dプリンティングソリューションは、いまから1年前に発表し、2016年末に第1号機を納品しました。その後、少しずつ販売を増やしてきましたが、いよいよ本格的な販売を開始するタイミングに入ってきました。アジアパシフィックでの展開も正式に発表し、日本、中国、韓国、シンガポール、オーストラリアの5カ国で販売します。日本では、武藤工業とリコージャパンの2社が、認定マスターパートナーとして販売を行うことになります。

HP Jet Fusion 3Dプリンティングソリューションの最大の特徴は、HP独自の「HP Multi Jet Fusionテクノロジー」を採用している点であり、これは、これまでの3Dプリンティング技術とはまったく異なるものです。これにより、最大10倍のスピードを実現しながら、半分のコストで、品質の高いパーツを生産することができます。我々はこれによって、製造業における設計から試作、製造に至るまでのものづくりを変革したいと考えています。3Dプリンタの市場は50~60億ドルの規模だといわれていますが、世界の製造業市場は12兆ドルもの規模があります。3Dプリンティングは、この製造業全体をターゲットに展開できます。

もうひとつの特徴は、素材のオープンプラットフォーム化を図っている点です。複数のメーカーに素材を開発してもらう仕組みを採用しており、現在、アルケマ、BASF、エボニック、ヘンケル、Lehmann & Voss、Sinopec Yanshan Petrochemical Companyの6社が参加しています。今後も素材を開発するメーカーは増加する予定です。これによって、新材料の開発を促進するとともに、材料と開発コストの低減、特定の業界ニーズへの対応など、3Dプリンティングの広がりを加速できます。

--これまでの金型成形や射出成形が中心であった製造業のものづくりを、3Dプリンティングタはどう変えていくのですか?

ナイグロ:3Dプリンティングが製造業に広がるには、6つの前提条件があると考えています。ひとつは、3Dプリンティングの生産性、信頼性、一貫性が、金型成形や射出成形と同等水準になるということです。2つ目には、3Dプリンティング向けの素材が射出成形の素材よりもコストが高いという現状を打破することです。そして、3つ目には素材の種類も何100種類、何1000種類と増やさなくてはなりません。4つ目には、3Dプリンティングにしかできないデザインが生み出されるという実績を積み重ねることです。5つ目には、3Dプリンティングによる製造に最適化した形で、工場そのものを変えていくという努力や、サプライチェーンを変えていくという取り組みです。ユーザーからの要望にあわせて、すぐに製品を作り上げ、求めるものを迅速に提供するために、これまでとは違ったサプライチェーンを再設計しなくてはなりません。そして、最後に、業界によっては、3Dプリンティングで作られたパーツや完成品を使用するためには、標準化の問題や規制を緩和するといった動きも必要だといえます。いまは、3Dプリンティング市場は小さなものですが、こうした6つの要素が整えば、3Dプリンティングが、製造業に一気に広がっていくことになるでしょう。

3Dプリンティングは、デザインをしたものを翌日には完成品にできるという点で、すでに、射出成形に比べても速いスピードを実現していますし、射出成形ではできないデザインを3Dプリンティングで製作できるという実績も出ています。例えば、ラックギアの場合、一番上の層が黒で、その下に黄色の層を作り、さらにその下に赤い層を形成することができます。磨耗していくと、黒から黄色になり、赤へと変化し、視覚的に交換時期がわかるようになります。こうしたデザインは、3Dプリンティング以外では実現できません。このように3Dプリンティングがもたらすメリットは大きいといえ、すでに金型成形や射出成形では実現できない世界へと踏み込んでいます。しかし、製造業に普及するためには、やはり先ほどあげた6つの前提要素をすべて達成する必要があります。私は、それが揃うのが2020年~2022年の間だと考えています。HPがいま、3Dプリンティング市場に参入したのは、そうした時代がまもなく訪れることを見越し、より3Dプリンティングの普及を加速する役割を果たそうとしているからです。

ラックギアでは黒い層の下に、黄色の層、赤い層を形成できる

こうした複雑なギアも、パーツを組み込むのではなく、一度に作り上げる

岡氏(以下、敬称略):ナイグロ氏自身は、プリンティング製品全体を見ていた時期がありましたが、あえて、3Dプリンティングの担当として、新たな組織を作り、そこにフォーカスした体制に移行したことも、いま、HPが3Dプリンティングにリソースを集中させていることを証明するものだといえます。