梅雨が明けるとやってくる、本格的な夏。どんな食いしん坊も、猛暑には勝てずに食欲がなくなってしまうもの。そんな夏こそ、熱くてうまい食べ物を食べて気合いを入れたい! ということで、今回は中国料理「源来酒家」(東京都千代田区)の名物、熱々の「麻婆カレー麺」(税込1,000円)を食べてきた。

靖国通り沿いにそびえたつ建つこのビルが「源来酒家」(東京都千代田区) ※全20枚

まかないから生まれた人気メニュー「麻婆カレー麺」

東京メトロ・都営線「神保町駅」または東京メトロ「九段下駅」から徒歩数分、靖国通り沿いの専大前交差点近くにあるのが「源来酒家」のビル。5階まで全80席あるという大きな店ながら、店内は実に家庭的な雰囲気だ。

ご主人の傅登華(フウノボル)さんは、日本生まれ神田育ち。お父さまは上海生まれで、1942年に来日したそうだ。神保町には、中国から偉い人や学生が勉強するために集まっていたため、その人たち向けの料理を作る華僑が集まっていたのだそうだ。そんな歴史があるなんて知らなかったなあ。

メニューが外に置かれているので安心して入りやすい

「源来酒家」は、開店して18年目。もともと、60年前から家族でやっていた「源来軒」が近くにあったが、こちらは2015年にクローズ。いずれにせよ、神保町ではかなり歴史のあるお店なのだ。オープンして2、3年後に始めた1番人気のメニュー「麻婆麺」(税込1,000円)から発展させた「麻婆カレー麺」は、メニュー化して3、4年目だという。麻婆豆腐とカレーを合体させちゃうなんて、いったいどんなきっかけがあったのだろう?

物腰が柔らかくユーモアも忘れない、ご主人の傅登華(フウノボル)さん

傅さんによると、「ある時、まかないでカレーを作っていて、麻婆豆腐も少し残っていたから、白いご飯の上にかけて一緒に食べてみたんですよ。そしたら合わないくないんですよね。これはいけるんじゃないかなって。そこからお客さんにメニューとして出すために、分量を変えてみたり、カレーのスパイスの組み合わせを変えたりしたが、しっくりこない。お客さんに出すまでは長かったですね」だという。

1階客席はとても落ち着く雰囲気だった

単純にカレーと麻婆豆腐を混ぜただけではないんですね~。試行錯誤を重ねた結果、完成した「麻婆カレー麺」は、カレーをメインにしているのではなく、「カレー風味の麻婆麺」とのこと。麻婆豆腐自体は「麻婆麺」で使っているものと同じで、スープ、麺を入れてカレーのソースをかけ、その上に麻婆豆腐でフタをするイメージ。4階の調理場で作り、1階~3階に小さいパントリーがあり、そこでもう1度温めてからお客さんに提供するため、グツグツ・アツアツな状態でテーブルにやってくるのだ。

やっぱり中国といえばパンダ

ランチの1番人気は「麻婆麺」だが、その次に来るのが「麻婆カレー麺」。「麻婆麺」が100食出るとして、30食くらいが「麻婆カレー麺」くらいの割合だそうだが、まず「麻婆麺」を食べて、その次に「麻婆カレー麺」を食べてみたらそのままやみつきになってしまう人もいるんだとか。お客さんは近所のサラリーマンが中心のようだが、若い女性のお客さんも多いとのこと。また、「源来軒」時代の常連だった大企業の偉い人が足を運んでくれるとのことで、長い間支持されているようだ。

子どもたちと、ちょい怖いテイストのお面の中国感がすごい

老舗の「麻婆麺」とカレーが融合した味とは?

では早速、「麻婆カレー麺」を注文。月に平均3,000丁(!)使うという豆腐は、自家製豆腐を製造する豆腐屋さんから仕入れた、絹ごしのものを使っている。あまり柔らかいものではなく、歯ごたえのある絹ごし豆腐を特注して作ってもらっているそうだ。麻婆カレー麺には豆腐が1丁入っている。

プリプリした特注の絹ごし豆腐を使用

カレーソースは、玉ネギとニンジン、ジャガイモのみじん切りをカレー粉と煮込んでから、ジューサーにかけて完成したもの。豆腐は「す」が入ってしまうため、沸騰させないようにし、あえて豆腐の芯まで熱を通さないようにするそうだ。

大きなフライパンでまずは麻婆豆腐作りから開始

細部までこだわった調理法に感心しているうちに、次々と手早く調理していく傅さん。お昼は一気に20皿~30皿くらい「麻婆麺」「麻婆カレー麺」の注文が入るため、どんどん作っては出し、作っては出しを繰り返している。作り置きは絶対しないそうだ。

たくさんのスパイスが深みのある味を生み出している

中華料理といえばビッグファイヤー!

ひき肉と豆鼓(トーチ)、お酒などを加えて炒め、麻婆豆腐が完成。麺は国産の小麦と、「モンゴルかん水」というかん水を使った特注麺を使用しているんだとか。「モンゴルかん水」なんて初めて聞きましたよ。茹であがった麺とスープを入れて、その上にカレーソースをかける。そしてそこに熱々の麻婆豆腐を投入! うわぁ~おいしそう~! さらに温泉卵をとろんっと乗せて、「麻婆カレー麺」完成!!

麺の上にカレーソースを乗せる

調理開始から数分で素早く完成!

なぜかお水を2つ用意してくれた傅さん。そ、そんなに辛いの!? 「いや、そんなに辛くはしていないですよ。辛いのが好きな人は、麻婆麺用のスパイスがありますから。私がマスクして調合したスパイス(笑)」。マスクしないとヤバいくらいのスパイスってどんだけ辛いんだ!? 辛いもの好きな方は、ぜひトライしてほしい。

麻婆豆腐たっぷりで食欲をそそられる

土鍋風のどんぶりに、たっぷり入った豆腐とひき肉が食欲をそそる! まずスープをひと口飲んでみると、想像したよりも辛くはない。大きめに切られた豆腐は、絹と木綿の中間くらいの食感で、柔らかくもプリプリとした歯ごたえを感じることができる。舌にピリッとくる感じではないので、これなら辛いのが苦手な人でも大丈夫。

麻婆豆腐と温泉卵というのもあまりない取り合わせかも

その下にあるカレーソースは、麻婆豆腐と共に口に入れると風味がスーッと広がってきて、独特のうま味を醸しだしている。麻婆豆腐とカレーという主役級の食べ物同士なのに、ぜんっぜん喧嘩しないで協力し合っている感じで、その「One for All」な麻婆豆腐とカレーの姿に感動。そして、少し平打ち気味の麺はモチモチしており、具材との絡みもバッチリ。卵を崩して混ぜると、まろやかになってこれまた別のおいしさがある。

辛いものが好きな人用のスパイスもあり。夢中で食べ過ぎて入れ忘れた……

温泉卵を混ぜながら食べるのもまろやかでおいしい

汗をかきながらフーフーして食べるこの感覚、ちょっと鍋を食べている感じに似ている。そして、食べ進めてもなかなか減った気がしないほどのボリューム・食べ応えだ。ランチタイムには5階まで満席になり、行列もできるというのも納得のうまさ。ごちそうさまでした。

麺は160gくらい。けっこうボリュームあり

食後、傅さんのご厚意でお口直しに「杏仁豆腐」(通常は単品で税込450円)をごちそうして頂いた。そこにはストロベリーソースで「高安」の文字が。な、なんで高安? 「相撲が大好きなんですよ。その前は稀勢の里って書いていたんですよ。やっぱり日本人の横綱・大関が誕生すると嬉しいですよ」とのこと。それ以前はトランプとかヒラリーとか書いていたそうだ。そんな遊び心もありながら、杏仁豆腐もやっぱり抜群にうまい!

杏仁豆腐も美味。ガンバレ高安!

多くの人においしい食べ物を提供したい心意気

いつもはオープンのときから一緒に働いているシェフ、何(カ)さんがメインで調理しているそうだが、今日はお休みということで、傅さん自らが腕をふるってくれたのだが、なんでも、中国の特級免許の資格を持つ何(カ)さんが作る料理は「もっとおいしいですよ」という。傅さんが作ってくれた料理もめちゃくちゃおいしいのに、そんなセリフが出るなんて。まるで、かつて格闘家のホイス・グレイシーが「兄のヒクソンは私の10倍強い」と言ったときのような衝撃だ。う~ん、何(カ)さん幻想が膨らむのでまた来よう。

ちなみに、他に人気があるのが、冷たいとろろを麻婆豆腐にかけた「とろろ麻婆麺」(税込1,100円)。日本に生まれた傅さんならではのオリジナル料理だ。また、メニューにないものも場合によっては作ってくれるようで、「中国に駐在していた商社の方等に、『中国で食べた料理が食べたい』って言われることもあるんです。中国のシンプルな家庭料理で『トマトの卵炒め(西紅柿炒蛋)』があるんですけど、日本人に口にも合うんですよ。昨日も注文入りましたね」と話す。

もちろん麺以外にも豊富なメニューが揃っている

要望があったそれらの料理をメニュー化したりするんだろうか? 「いや、メニューにしないのがまたいいんですよ(笑)」。おっ! 裏メニューってやつだ。そういうのって自分だけが知っている的な喜びがあるもんね。さすが傅さん、飲食店を訪れる人の心理をよくわかっていらっしゃる。「お客さまからのご要望があったものを作るのが、我々は技術を持った職人の仕事です。毎日切磋琢磨して食の技術を磨いていますので、思い出の料理などがあれば、言って頂ければお作りすることはほとんどできると思います」。

デザートセットがあるのも嬉しい

多くの人においしい食べ物を提供したい、料理人として心意気があるからこそ、「麻婆カレー麺」のようなオリジナルの料理が生まれるのだろう。家庭的な雰囲気で、本場の中国料理が気兼ねなく食べられる「源来酒家」。暑い夏にこそ、「麻婆カレー麺」を食べて頑張ろう!

●information
源来酒家
住所: 東京都千代田区神田神保町3-3
営業時間: 月~金 11時~23時(ラストオーダーは22時)
     土・日・祝 11時~21時(ラストオーダーは20時)
定休日: 5月4日、5日、年末年始