国立長寿医療研究センター(NCGG)は6月20日、EDEM(ER degradation enhancing α-mannosidase-like protein)というタンパク質の量を増加させて異常なタンパク質の蓄積を防ぐことが、認知症を始めとする老年性の神経変性疾患の新たな治療戦略になる可能性を見出したと発表した。

同成果は、NCGG認知症先進医療開発センターアルツハイマー病研究部 関谷倫子研究員、飯島浩一発症機序解析研究室長らの研究グループによるもので、6月19日付けの米国科学誌「Developmental Cell」に掲載された。

生体を構成するタンパク質のおよそ1/3は、細胞中の小胞体で作られる。小胞体内で上手く折りたたまれずに異常な形をとったタンパク質が検出されると、小胞体でのタンパク質の合成を一時的に止め、異常なタンパク質を速やかに分解することで、小胞体に異常なタンパク質が溜まるのを防ぐ小胞体ストレス応答と呼ばれる仕組みが誘導される。

アルツハイマー病をはじめとする多くの神経変性疾患の患者脳では、この小胞体ストレス応答の活性化が認められる。小胞体ストレス応答自体は異常なタンパク質が蓄積するのを防ぐ防御機構である一方で、小胞体ストレス応答の過剰な活性化は、細胞機能の低下や細胞死を引き起 こすことから、それらが神経変性疾患の発症にも関係していると考えられている。

同研究グループは今回、小胞体から異常タンパク質を抜き取って分解する小胞体関連分解(Endoplasmic reticulum associated degradation:ERAD)という仕組みに着目。神経変性疾患モデルショウジョウバエを用いた実験から、小胞体関連分解に関係するEDEMのみを増加させることで小胞体関連分解の活性が上昇し、異常タンパク質の蓄積と神経変性が抑えられることを発見した。一方で、小胞体ストレス応答を活性化させた場合や、他の小胞体分解関連タンパク質では副作用等が起こり、EDEMが示したような保護的効果は再現できなかった。

さらに、EDEMの量を増加させるのみで、正常な老化の過程を遅らせることができるか調べるために、ショウジョウバエの脳神経細胞や筋肉細胞、腸の細胞でEDEMタンパク質の量を増加させたところ、老化に伴う運動能力の低下を抑え、寿命を延ばす効果があることも見出した。

今回の成果について同研究グループは、本来備わっている防御機構であるストレス応答系を制御することが、神経変性疾患をはじめとする老化関連疾患への治療法開発の重要なターゲットになることを示唆していると説明している。

今回の研究の概要 (出所:国立長寿医療研究センターWebサイト)