大阪大学(阪大)は6月28日、ヒドロナフト[1,8-bc]フラン骨格を、フェノールからわずか2段階の工程で合成する手法を開発したと発表した。

同成果は、大阪大学大学院工学研究科応用化学専攻 生越專介教授らの研究グループによるもので、6月26日付けの英国科学誌「Nature Communications」に掲載された。

ヒドロナフト[1,8-bc]フラン骨格は、六員環-五員環-六員環の縮合三環式骨格で、抗腫瘍剤や解熱鎮痛剤、殺虫剤、植物ホルモンなど多くの生物活性化合物に含まれる。これまでに報告されてきた手法を用いてヒドロナフト[1,8-bc]フラン骨格を合成しようとした場合、複数の合成工程が必要、手法が煩雑、選択的に目的の物質のみを作ることが困難であるといった課題があった。

ヒドロナフト[1,8-bc]フラン骨格 (出所:科学技術振興機構Webサイト)

今回、同研究グループが開発した分子変換技術は、対称性を持つ化合物のバランスを崩し、非対称な化合物、特に鏡像異性体を与える不斉非対称化反応に初めてニッケル化合物を用いた点が鍵となった。

フェノールから1工程で合成される原料1には鏡面がないため、鏡像異性体は存在しない。しかし、今回用いたニッケル化合物は、不斉非対称化反応により原料1中の置換基を3次元的に見分け、一方の鏡像異性体である中間体2のみを与えることがわかった。さらに中間体2はアルケンと反応し、ヒドロナフト[1,8-bc]フラン骨格を持つ生成物3を与える。

ヒドロナフト[1,8-bc]フラン骨格を持つ生成物が得られるまでの反応 (出所:科学技術振興機構Webサイト)

これらの反応の効率は総じて高く、また多種多様なヒドロナフト[1,8-bc]フラン骨格を持つ分子の合成に応用が可能であるという。