10機の「イリジウムNEXT」の打ち上げに成功

ファルコン9にとって2度目の再使用となったブルガリアサット1の打ち上げ、着地の成功から2日後の6月26日(日本時間)、スペースXはふたたび、ファルコン9の打ち上げと着地に成功した。

イリジウムNEXTを搭載したファルコン9の打ち上げ (C) SpaceX

今回初めて装備された、チタン製の新型グリッド・フィン (C) SpaceX

通信衛星「イリジウムNEXT(Iridium NEXT)」を10機搭載したファルコン9は、日本時間6月26日5時25分(米太平洋夏時間6月25日13時25分)、カリフォルニア州にあるヴァンデンバーグ空軍基地の第4E発射台を離昇した。ロケットは順調に飛行し、打ち上げから約57分後に衛星の分離を開始。約15分かけて、全10機の衛星の分離に成功した。

イリジウムNEXTを運用する衛星通信会社イリジウムによると、打ち上げ後、全10機の衛星からの信号受信に成功し、衛星の状態は正常であることを確認したという。

ファルコン9は24日にも通信衛星ブルガリアサット1を載せて打ち上げられており、発射台こそ24日は東海岸のケネディ宇宙センター、26日は西海岸のヴァンデンバーグ空軍基地と異なるものの、わずか2日と1時間15分の間に、2機のファルコン9が打ち上げられたことになる。

これはファルコン9にとって最短記録となるが、もちろん狙ったものではなく、もともとブルガリアサット1の打ち上げは21日に予定されていたものの、フェアリングのトラブルで4日延期。そして以前から26日にはイリジウムNEXTの打ち上げが予定されていたことから、偶然2日の間隔になった結果である。なおケネディ宇宙センターとヴァンデンバーグ空軍基地とでは、打ち上げにかかわる人員が異なるため、打ち上げ準備作業を並行して行うことは可能だったという。

ちなみに歴史をふりかえると、1995年に米国の「アトラス」ロケットが、ケープカナベラル空軍基地とヴァンデンバーグ空軍基地から1機ずつ、同じように2日間で2機の打ち上げに成功している。また2015年にはロシアが、カザフスタンにあるバイコヌール宇宙基地と南米仏領ギアナにあるギアナ宇宙センターから、「ソユーズ」ロケットを約2時間の間隔で打ち上げたこともある。

チタン製の黒い新型グリッド・フィンが登場

今回の打ち上げに使われた第1段機体は新品(シリアル番号B1036)だったが、機体の着地、回収は行われ、成功している。今回は西海岸のヴァンデンバーグ空軍基地からの打ち上げだったため、回収用のドローン船は太平洋に配備されている「指示をよく読め(Just Read the Instructions)号」が担当した。

ただ、打ち上げの十数分前には、マスク氏はTwitterで「天候が悪いため、ドローン船の待機位置を変更します」と明らかにし、天候の条件や着地のための準備などから、着地がやや難しくなることを示唆した。

しかし一方で、今回のファルコン9には新しい小型の安定翼が装備されていた。この安定翼は「グリッド・フィン」と呼ばれており、いわゆる翼と聞いて連想する鳥や飛行機がもつような形のものではなく、文字どおり格子状の板の形をしている。

従来のファルコン9では、このグリッド・フィンの素材にアルミニウムを用いていた。アルミは軽いものの耐熱性は低いため、着地時にエンジンの噴射から受ける熱に耐えられるよう、フィンに耐熱塗料を塗布し、また打ち上げごとに交換する必要もあった。

一方、今回装備された新開発のフィンはチタン製で、アルミよりほんのわずかに重くなるものの、耐熱性が高いため、耐熱塗料を塗布したり打ち上げごとに交換する必要はない。さらに、ただ素材を変えただけではなく、フィンそのもののサイズも大きくなり、後縁が波打った形状になるなど形状も変わっている。マスク氏によると、これにより安定性や制御能力が向上し、強風の中での着陸などが可能になるという。

チタン製の新型フィンは、年末に投入予定のファルコン9 ブロック5から導入予定だったものの、試験的に現行型の「ファルコン9 フル・スラスト」に導入されることになった。この前倒しでの搭載は以前から決まっていたもので、今回の打ち上げ直前に発生した悪天候を受けてのものではないものの、待機位置を移動してもなお、波や風で大きく揺れる「指示をよく読め号」への着地に成功し、図らずもその性能を発揮する機会となった。

マスク氏は着地成功後、「新しいチタン製のグリッド・フィンは、予想よりよく動いてくれました」とコメントしている。ただ、今後ブロック5が登場するまでのフル・スラストにも装備することになるのかなど、詳しい見通しは明らかにされていない。

今回初めて装備された、チタン製の新型グリッド・フィン (C) SpaceX

なお、以前から行われているフェアリングの回収試験については、打ち上げ後に「成功は間近」と述べるにとどまり、今回も満足のいく形での回収ができなかったことをうかがわせた。マスク氏によると、大気圏内を降下、飛行する際に使うパラシュートに何らかの問題があり、今年の終わりまでに解決したいとしている。

悪天による強風と荒波の中、ドローン船「指示をよく読め」号に着地したファルコン9の第1段機体。中継映像からもその荒れ具合がわかる (C) SpaceX

次のファルコン9の打ち上げは7月に行われる予定で、この打ち上げでは通信衛星「インテルサット35e」を、ケネディ宇宙センターから静止トランスファー軌道へ送る。第1段が再使用機体なのか、また着地・回収を行うのかなどについてはまだ明らかにされていない。

イリジウムNEXT

イリジウムNEXTは、米国の移動体向けの衛星通信を提供しているイリジウムが運用する、新世代の通信衛星である。

イリジウムは1998年に設立され、サービスを開始したものの、1999年には連邦倒産法第11章(チャプター11)による破産を経験している。その後再建され、現在も離島や極域などの僻地や、インフラ、政府系通信などの用途で利用されている。

2017年から打ち上げが始まったイリジウムNEXTは、現在運用中の旧型の衛星と比べ、高速・大容量のデータ通信が可能になる。同社では今年中に70機、最終的には予備機を含め80機以上のイリジウムNEXTを打ち上げ、旧型機を代替することを目指している。今回打ち上げられたのは今年1月に打ち上げられた最初の10機に続く11~20機目で、今後すべての衛星がファルコン9によって打ち上げられる予定となっている。

衛星1機あたりの打ち上げ時の質量は800kgで、金の延べ棒のような台形の四角柱の形をしている。70機の衛星は、高度780km、軌道傾斜角86.4度の円軌道に、10機ずつ異なる軌道面に投入して運用される。設計寿命は10年。開発、製造は欧州の航空・宇宙大手タレス・アレーニア・スペースが担当した。

またイリジウムNEXT衛星には、50kgほどの機器を搭載できるスペースが用意されており、他社の機器を受け入れるなどして、同衛星の軌道を利用したイリジウム以外のサービスが展開できるようになっている。1月に打ち上げられた10機に続き、今回もイリジウムの子会社でもあるエアリオン(Aireon)が提供する、世界のどこでも航空機の位置をリアルタイムで追跡できる機器が搭載されている。また今後、58機の衛星には「イグザクトアース」(exactEarth)の、自動船舶識別装置(AIS)を利用した船舶の位置をリアルタイムで追跡できる機器も搭載される予定となっている。

イリジウムNEXT (C) Iridium

参考

BulgariaSat-1 Mission | SpaceX
BulgariaSat-1 Mission
Iridium-2 Mission | SpaceX
Iridium-2 NEXT Mission
Successful Second Launch Doubles the Number of Iridium NEXT Satellites in Space (NASDAQ:IRDM)