京都大学高等研究院物質-細胞統合システム拠点(iCeMS)は、MOFというナノサイズの粒子を、PIM-1という高分子材料に適切な条件で添加することで、ガスの分離精度を大幅に向上した混合マトリクス膜を開発することに成功したと発表した。

研究者コメント「二酸化炭素をいかに経済的に効率の良い方法で分離・回収するかという大きな課題は、たった一本の論文では解決することはできず、技術開発を継続的に行う必要があります。その中で、乗り越えるべき課題等もさらに見つかると思います。大変なチャレンジですが、とても重要な問題で、今すぐにでも着手していかなければならないと感じています」(画像・コメント出所:京都大学プレスリリース)

同研究は、iCeMSのイーサン・シバニア教授、ベナム・ガリ特定助教、京都大学エネルギー科学研究科の脇本和輝(修士課程学生)らの研究グループによるもので、同研究成果は、6月6日に英国の科学誌「Nature Energy」で公開された。

現在、世界最大の火力発電所は1日にギザの大ピラミッド12杯分もの二酸化炭素を排出しており、また、500MW級の巨大な火力発電所が世界に5000基以上もあり、その数は今も増えているという。分離・貯蔵されるべき温室効果ガスの量は計り知れないが、既存の高分子膜を用いたガス分離技術は、ガスの処理速度が遅すぎるか、高処理速度のものはガスを分離する精度が低くエネルギー効率のよい二酸化炭素分離を行えないため、莫大な量の排出ガスを処理するには不向きであった。

混合マトリクス膜(MMMs)と呼ばれる高分子薄膜を用いた「フィルター」は、二酸化炭素の分離・貯蔵 (CCS)技術に革命を起こす可能性を秘めているが、CCS技術がブームとなっていた2005年~2009年、北アメリカやヨーロッパ、オーストラリアで実施された10億ドル規模のCCSプロジェクトの大半が、失敗に終わってしまっているという。単に理想的なモデルとしてではなく、CCS技術が現実世界に貢献するには、経済的優位性を持つ技術の差別化を図っていかなければならないということだ。

同研究グループは、ガスの処理量や分離精度だけでなく、コスト面についても意識した方法を検討し、北川進iCeMS拠点長によって開発されたMOFという素材に注目した。そして、このナノサイズの粒子MOFを、マンチェスター大学のピーター・バド教授とニール・マッケオウン教授が開発したPIM-1という高分子材料に適切な条件で添加することで、ガスの分離精度を大幅に向上した混合マトリクス膜を開発することに成功した。

同研究により、ガスの処理量や分離精度だけでなくコスト面においても優れた性能をもつ混合マトリクス膜が開発されたことで、大規模なCCS プロジェクトにおける大幅なコスト削減への可能性が開けたという。コストを1/10にまで低減できる可能性もあり、今後、CCSプロジェクトが見直され政治的に受け入れられる可能性もあるとコメントしている。