=九州大学は、同大学大学院医学研究院臨床検査医学分野の康東天教授、後藤和人助教、佐々木勝彦氏らの研究グループが、同大学とLSIメディエンスとの共同研究において、インターロイキン6の量がミトコンドリアの特定の機能により調節されていることを明らかにするとともに、マウスの敗血症モデルを用いて作成したp32部分欠損マウスにおいて生存率が低下することを見出したことを発表した。この成果は5月11日、オープンアクセス誌「EBioMedicine」に掲載された。

特定のミトコン ドリア機能が障害されると、ATF4という分子が活性化しイ ンターロイキン6が過剰に産生さ れ、敗血症モデルのマウス個体の生存率が低下する(出所:ニュースリリース※PDF)

「敗血症」は、細菌による毒素が全身に広がり、組織障害や臓器障害を起こす重篤な病態である。世界で1800万人が罹患し、医療の進んだ先進国においても死亡率が30%程度と推定されるため、さらなる治療法の開発が必要とされている。特に、大腸菌などのグラム陰性桿菌の細菌壁の構成成分のひとつであるリポ多糖(LPS)は、敗血症性ショックを引き起こす一因となる。これまで新規の臨床検査法や強力な抗生剤の開発がなされてきたが、LPSなどに伴う生体の過剰な免疫反応により起こる敗血症性ショックの加療は困難であった。

これまでの研究で、筋肉などのミトコンドリアの機能が低下している敗血症の患者や血中のインターロイキン6の量が多い患者は、敗血症の予後が悪いことが明らかにされている。しかし、どんなミトコンドリア機能の障害が敗血症の予後に関わっているのか、また、どんなメカニズムで敗血症が増悪するのかについては謎が残されていた。

研究グループは、ミトコンドリア機能を阻害する薬剤をスクリーニングして、ミトコンドリアタンパク質を合成する機能が、大腸菌由来のLPSに対するインターロイキン 6の産生に影響を与えていることを見出しました。さらに、ミトコンドリアタンパク質の合成を制御する分子の一つであるp32という遺伝子の部分欠失マウスを樹立した。敗血症モデルでは、このp32という遺伝子がインターロイキン6の量と予後に影響を与えていることを見出した。さらに、線維芽細胞やマクロファージなど細胞を用いて、過剰に産生されるインターロイキン6はATF4という分子が核に移行することより起こるメカニズムを明らかにした。

これらの結果から、ミトコンドリアの特定の機能を保護することや、ATF4という分子を阻害することが、重症な敗血症の新たな治療ターゲットになると期待される。研究者は「世界中の多くの患者が敗血症により命を落としています。本研究をさらに前に推し進めて、その結果、新たな臨床検査法・創薬の開発などへとつなげて行きたいと思います。」と述べている。

大腸菌由来のLPSで刺激すると、p32 遺伝子欠損線維芽細胞はATF4が核に集積する(出所:ニュースリリース※PDF)