早稲田大学(早大)は6月16日、アト秒レーザーによるネオン原子の光イオン化過程で生成した、ほぼ純粋なf-軌道電子の密度分布と、その位相を分けた波動関数に相当するイメージの直接測定に成功したと発表した。

同成果は、早稲田大学理工学術院 新倉弘倫教授、カナダ国立研究機構、独マックス・ボルン研究所らの研究グループによるもので、6月16日付けの米国科学誌「Science」に掲載された。

アト秒の時間領域では、物質の構造変化よりも速い時間スケールで、原子や分子内の電子の動きを測定することが可能となる。アト秒のパルス幅を持つレーザーパルスは極端紫外領域の波長を持つため、物質に照射すると、光電子が放出される(光イオン化過程)。放出された光電子のエネルギーや角度分布を測定することで、アト秒時間スケールでの物質の電子状態の変化を測定することが可能となる。

一方、放出された光電子の角度分布は、イオン化の選択律から、一般に複数の異なる角運動量を持つ量子状態の重ね合わせになり、ブロードな分布を持つ。したがって、個々の角運動量量子数(ℓ, m)を持つ波動関数を分けて測定することは困難であった。量子状態を選択して測定することが可能になれば、放出される光電子の運動量分布が直接、電子波動関数の分布を表すことになる。

同研究グループは今回、アト秒高次高調波を用いた新たな概念に基づく測定方法を開発し、ネオン原子から放出されたほぼ純粋なf-軌道(ℓ=3, m=0)電子の確率分布(|Ψ|2)をイメージング測定した。さらにアト秒パルスを追加することで、f-軌道の位相を分けた区別した波動関数(Ψ)に相当するイメージを得ることにも成功した。

測定された位相を分けたネオン原子のf-軌道イメージ(上段)。ある特定の高次高調波と赤外光との時間差の時に、f-軌道の6つのローブのうちの同じ位相成分同士が強調されていることがわかる。高次高調波と赤外光の時間差を約1300アト秒(660アト秒の2倍)だけ変化させると、逆の位相が抽出される (出所:早大Webサイト)

従来の光電子分光では、イオン化により放出された光電子の分布から直接、個々の角運動量成分を持つ波動関数の分布を得るということは困難だったことから、同研究グループは今回の成果について、アト秒時間分解・光電子分光法に対して新たな地平を開いたものと説明している。