Hewlett Packard Enterprise(HPE)は6月6日、米国ラスベガスで年次イベント「HPE Discover Las Vegas 2017」を開催した。基調講演において、CEOのMeg Whitman氏は「ハイブリッドITをシンプルにする」と約束した。

Hewlett Packard Enterprise CEO Meg Whitman氏

PCとプリンタの事業を担うHPと分社して以来、HPEはコア事業の絞り込みを続けている。今年のHPE Discoverでは中核となるサーバで最新世代の「Gen 10」を発表、コンポーザブルインフラの「HPE Synergy」についても機能強化を行った。

クラウドからオンプレミスに - ハイブリッドITのトレンド

ステージに立ったWhitman氏は、今日のITのトレンドとして、デジタルトランスフォーメーションによるアプリケーションとデータの加速(「すべてがコンピュートする時代」とWhitman氏)を挙げる。

「2025年にはあらゆるものが接続されてデータを共有しているだろう。今とはまったく違った世界になっている。技術の活用は企業にとって死活問題になっている。技術により生き残るか、滅びるかの明暗が分かれることになる」(Whitman氏)

コンピュート、ストレージといったリソースを瞬時に利用できるパブリッククラウド(IaaS)が大きな勢力となる中、「ビジネスの成果を出す」ためのITとしてHPEが提案するのが、「ハイブリッドIT」だ。Whitman氏が定義するハイブリッドとは「アプリケーションがオンプレミス、オフプレミス、そしてエッジで動くこと」となる。

「すべてがパブリッククラウドではない」というのがWhitman氏の主張だが、オンプレミス回帰をうかがわせるデータもあるようだ。Whitman氏は基調講演のステージで、「63%の企業がハイブリッドITアプローチを追求する」というHarvard Business Reviewの調査を引用した。また、IDCの調査では、大企業の53%がワークロードをパブリッククラウドからオプレミスに「戻した」「戻すことを検討中である」ことが明らかになっていることを紹介した。

また、ハイブリッドITを実現している例として、製薬のMerckのグローバルCIO兼新技術担当プレジデントのClark Golenstani氏が講演を行った。Golenstani氏は「研究などですぐにリソースが必要なことがあり、コンピューティング、ストレージをコンスタントに追加で実装していた」というが、規制遵守、プライバシーはもちろん、コスト高と感じたことから、オンプレミスを組み合わせたハイブリッドIT環境を構築したそうだ。

Golenstani氏によると、ハイブリッドITの最大のメリットは「敏捷性」。オンプレミスが入ったハイブリッドITのメリットが敏捷性というのは意外に思えるが、リソースをすぐにプロビジョニングできる環境を構築しているという。当初の課題だったコストも削減したほか、Golenstani氏は柔軟性もあげた。

Merck グローバルCIO兼新技術担当プレジデント Clark Golenstani氏

パブリッククラウドの「クラウドの断崖」に注意

Merckのように、ハイブリッドITのメリットを感じているところは少なくない。2016年のHPE DiscoverでCEO自らが登場したDropboxでは、それまでAmazonクラウド上に構築していたインフラを一部HPEのオンプレミスソリューションに切り替え、ハイブリッドITを構築している。また、コラボレーション、作業管理のSmartsheetも、パブリッククラウド1本だったがHPEのオンプレミスサーバを組み合わせるハイブリッドITに舵を切った。

これらは2社ともクラウドベンダー(SaaS)だ。このような動きを紹介しながら、Whitman氏は、自社にとって「正しいミックス」を考えるべきと強調する。

パブリッククラウドについては、「一部のワークロードやユースケースに適している」としながらも、使い続けると「ある時点で"クラウドの断崖(Cloud Cliff)"にぶち当たる」とWhitman氏。

一般に、パブリッククラウドの短所として指摘されている「コスト(定額を払い続けるクラウドは一定期間が経つとオンプレミスより高価になる」に加えて、「コントロール、セキュリティ、パフォーマンスの点でもクラウドがベストな最適ではない」とWhitman氏。「すべてをオフにするのではなく、オンプレミスとパブリッククラウドを適所に使うハイブリッド環境を求める動きがある」と続けた。

HPEはハイブリッドITをシンプルに、という目標の下、ハイパーコンバージドインフラ技術を持つSimpliVityの買収、DockerやMesosphereとの提携や技術面の機能強化に加えて、新たにテクノロジーサービスの組織を再定義し「HPE PointNext」を設立した。Pointnextでは、Advisory and Transformation、Professional、およびOperationalの3種類のサービスを提供する。

HPE PointNextは今年のHPE Discoverで本格的なデビューを飾るが、「既存のSI事業者などのパートナーを補完する役割」とWhitman氏は強調、基調講演にWiproを招き、共同の顧客に柔軟な課金モデル、プライベートクラウドと自動化ソリューションなどを提供していることを明かした。

Whitman氏はハイブリッドITに加え、同社のIoTシステム「EdgeLine」とネットワーク技術ARUBAで実現するインテリジェントなエッジにも触れた。

「最も安全な業界標準サーバ」Gen 10を発表

今年のHPE Discoverの大きな目玉となったのは、業界標準サーバのラインアップ「ProLiant」の新世代となる「Gen10」の発表だ。

Gen10について説明したのは、データセンターインフラストラクチャグループでゼネラルマネージャーを務めるシニアバイスプレジデントのAlain Andreoli氏だ。

Andreoli氏によると、「この2年間、数千人のエンジニアによって開発した」という。大切にしたのは顧客の声だ。「セキュリティ、データの保護、オンプレとオフプレミスのトレードオフをシンプルに、敏捷性、柔軟な消費モデル、ITをオンデマンドでなど、たくさんの声が寄せられた。われわれは真摯に耳を傾けた」とAndreoli氏。ベールを脱いだGen 10の最大の特徴は、「世界で最も安全な業界標準サーバー」だ。

HPE データセンターインフラストラクチャグループでゼネラルマネージャーを務めるシニアバイスプレジデントのAlain Andreoli氏

シリコンレベルの安全対策が施されており、マルウェアや不審な動きを検出できる。学習機能も備えており、悪意ある活動を高い精度で検出できるようになるという。具体的には、自社シリコンとファームウェア(HPE Integrated Lights Out)との間にリンクを構築し、サーバが悪意あるコードを実行するのを阻止できる。シリコンレベルで不変な"指紋"を作成することで、指紋に合致しない場合は起動しない。また、ファームウェアの復旧も自動化されているとのこと。セキュリティをシリコンレベルで実現していることから「最も安全」というわけだ。

「サーバベンダーでシリコンを開発しているのはわれわれだけ」とAndreoli氏は胸を張る。

これらに加えて、敏捷性では自動化を進めることでマニュアルによるオペレーションを最小限に抑えた。アプリケーションの実装が効率化され、それぞれのワークロードに合わせて性能も最適化できる「Intelligent System Tuning」なども備えるという。

セキュリティ、敏捷性に次いで3つ目の特徴として挙げたのが、コントロールだ。オンプレミスの強みの1つであるコントロールで経済性を管理するため、オーバープロビジョニング対策としてキャパシティをできるキャパシティケアサービスも提供するという。

「Gen 9からGen 10へのアップグレードもシームレスに実現する」とAndreoli氏は約束した。Gen 10は2017年夏に発売の予定だ。