「Digital Vortex」

シスコシステムズは、スイスのビジネススクールIMDと共同で「Global Center for Digital Business Transformation(DBT:デジタル変革やイノベーションに関する研究機関)を開設しており、2016年にはデジタルトランスフォーメーションに関する「Digital Vortex」出版している。

そして同社では「Digital Vortex」の著者や研究者を招き、デジタルトランスフォーメーションを推進しているビジネスリーダーを対象に、世界10カ国で展開するCisco Innovation Centerにて、「デジタル変革ワークショップ(VECTOR Workshop)」を開催。日本では6月1日に開催した。

これを受けシスコシステムズでは6月2日、VECTOR Workshopの内容を説明する記者説明会を開催した。この説明会の中では、デジタルテクノロジーによる創造的な破壊である「Digital Disruption(デジタル・ディスラプション)」と、Digital Disruptionを起こしているスタートアップ企業(Digital Disruptor:デジタル ディスラプター)について語られた。

米シスコ デジタイゼーションオフス マネージャーでデジタルビジネストランスフォーメショングローバルセンター客員研究員のローレン・バッカルー(Lauren Buckalew)氏

米シスコ デジタイゼーションオフス マネージャーでデジタルビジネストランスフォーメショングローバルセンター客員研究員のローレン・バッカルー(Lauren Buckalew)氏は冒頭、「『Digital Vortex』では、企業がデジタル・ディスラプションをどう理解したらいいのか、戦略的に計画の作り方を説明している。デジタル・ディスラプションはバズワードになっており、いままで競合でなかった企業が競合になっている。そして、デジタル ディスラプターはどういう形で市場に入ってくるのか、既存企業にどういった破壊を起こしているのかを理解するためのものだ。われわれの調査によれば、業界のトップ10企業のうち、4社はDigital Disruptorによって淘汰され、41%の企業はこの点を実在する脅威として捉えているものの、積極的に対応する企業は25%に過ぎない。これは、破壊してくるのを待っているか、対処の仕方がわからないかだ。中には、デジタル・ディスラプションが起こっていることに気がつかない企業もある」と、企業はいち早くデジタルトランスフォーメーションに取り組むべきだと訴えた。

同氏は、デジタル ディスラプターの例としてウーバーを挙げ、「ウーバーには技術革新だけでなく、まったく異なるビジネスモデル、お客様の関係性がある。値段もあらかじめわかり、言語の心配をしなくてもよく、ドルで支払う必要がないという簡単で便利というのが人々がウーバーを使う理由だ」と分析した。

そして同氏は、企業がデジタルトランスフォーメーションに取り組む際に、ビジネスの推進力となる価格、経験、プラットフォームの3つに分類された15の価値を紹介。

15の価値

「ウーバーの価値は、これらを組み合わせてさまざなビジネスモデルを提示している点だ。それが、既存企業にとってもっとも恐ろしい点だ」と述べた。

米シスコ デジタイゼーションオフス ディレクターでデジタルビジネストランスフォーメショングローバルセンター客員研究員のジョエル・バルビエ(Joel Barbier)氏

続いて登壇した米シスコ デジタイゼーションオフス ディレクターでデジタルビジネストランスフォーメショングローバルセンター客員研究員のジョエル・バルビエ(Joel Barbier)氏は、ディスラプターの大きな価値は俊敏性だとし、次のように語った。

「われわれの調査によれば、自社の価値について聞いたところ、ディスラプターはイノベーション、俊敏性、実験をしてもいいという気持ちを挙げ、既存企業は資本、ブランド、顧客と回答しているが、そこ(既存企業)にディスラプターが進入していく敷居は低くなっている。ディスラプターの大きな価値は俊敏性だ」

ディスラプターと既存企業の企業価値

同氏によれば、俊敏性には、環境における変化を監視、検知する能力「ハイパーアウェネス」、与えられた状況において最適な決断をする能力である「情報に基づく意思決定」、すばやく効果的に計画を実行する能力「迅速に実行」があり、これらを強化することで、デジタルトランスフォーメーションを成功させることができるとした。そして、上述した15の価値を使ってデジタル化していることが重要だと語った。

俊敏性を発揮するための3つの能力

IMD 北東アジア代表 高津尚志氏

IMD 北東アジア代表 高津尚志氏は、デジタルトランスフォーメーションを積極的に対応する企業が少ない背景について、「デジタルトランスフォーメーションはすべての経営者にとって重要なテーマでありながら、適切な準備ができていない。それが大きな課題だ。理由として、経営者と技術者(システム部門)の分断している点がある。そのため、お客さんに価値を提供するために技術をどう使っていくのかということを考えられる人がいない。経営者は技術がわからない、技術者はお客様に提供する価値がわからないという状況になっており、この2つを有機的に結合していくことが重要だ。また、世代間の格差もある。経営者は40-50代で、生活の中で感じるデジタルのおもしろさや価値と、若い人が見ている情報に分断がある。この2つが大企業のこの問題に対するアプローチを難しくしている」と説明した。

また、ジョエル・バルビエ氏はデジタルトランスフォーメーションの準備が遅れている理由について、「少し様子見ている点や起こっていることが理解できない点がある。そのため、何が起こっているのかを理解するのが第一歩だと思っている。経営者がそれをリードして、技術面よりも、ビジネス面で戦略を考えることが大切だ」と語った。

そのほか、価値が高まりつつある情報の活用について高津氏は、「米国のGoogle、フェイスブック、Amazonなどは、バーチャルなデータを多く持っているが、日本はSuicaやTカードなど、リアルな行動情報を蓄えるインフラが揃っている。そのあたりを日本企業がうまく使えるかが鍵になる」と指摘した。