東京工業大学(東工大)は5月23日、鉄系超伝導体中で最も高い超伝導転移温度を示す砒酸水素化鉄サマリウム(SmFeAsO1-xHx)のSmサイトとHサイトへの同位体置換に成功し、新たな反強磁性相を発見したと発表した。

同成果は、東京工業大学科学技術創成研究院フロンティア材料研究所 飯村壮史助教、元素戦略研究センター 松石聡准教授、細野秀雄教授、大学院生の岡西洋志氏らの研究グループによるもので、5月15日付けの米国科学誌「米国科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America)」オンライン版に掲載された。

高温超伝導物質である鉄系超伝導体の超伝導転移温度は、常圧下では SmFeAsO1-xAx(A=H or F)が示す58Kにまで向上しており、これは銅酸化物系を除くと最も高い値となっている。

磁気モーメントや磁気構造を調べるための手段のひとつである中性子回折法は、鉄系超伝導物質の発見当初から用いられてきたが、Smは全元素中でガドリニウムに次いで高い中性子吸収係数を持つため、SmFeAsO1-xAxからの回折中性子数が極端に少なく、その磁性に関しては研究が進んでいなかった。

今回、同研究グループは、吸収の大きい天然のSmを吸収の小さな同位体(154Sm)に置換することで、154SmFeAsO1-xAxの中性子回折および反強磁性構造の決定を試みた。また、同研究グループが開発した水素置換法を適応することで、従来から用いられていたフッ素よりも5倍量以上の電子を注入した物質の作製にも成功したため、その磁気特性も調べた。

この結果、過剰に電子を注入すると、鉄ニクタイド中で最も大きな磁気モーメントを持つ反強磁性相が現れることが明らかになり、より局在化したスピンが高温超伝導の発現に重要であることがわかった。今後、反強磁性相の発現機構を詳細に解析することにより、高い超伝導転移温度を持つ高温超伝導物質の材料設計が可能になると考えられる。

明らかになった154SmFeAsO1-xDxの電子相図(出所:東工大Webサイト)