米国のスペースXは5月16日(日本時間)、英国の衛星通信大手インマルサットの通信衛星「インマルサット5 F4」を搭載した、「ファルコン9」ロケットの打ち上げに成功した。今回の第1段機体は新品で、着陸脚などを取り外した使い捨て形態で打ち上げられた。一方、テキサス州にある同社の試験場では、超大型ロケット「ファルコン・ヘヴィ」の初打ち上げに向けた試験が続いている。

インマルサット5 F4を搭載したファルコン9の打ち上げ (C) SpaceX

宇宙へ向かって飛んでいくファルコン9 (C) SpaceX

ファルコン9ロケットは日本時間5月16日8時21分(米東部夏時間5月15日19時21分)、フロリダ州にあるNASAケネディ宇宙センターの第39A発射台から離昇した。ロケットは順調に飛行し、打ち上げから約32分後に衛星を分離、所定の軌道に投入した。打ち上げ能力の制約から、ロケットの機体回収は実施されなかった。

インマルサットによると、分離後の衛星の状態は正常だという。現在衛星は静止トランスファー軌道に乗っており、このあと自身のエンジンを使って、目的地である静止軌道へと乗り移る。

インマルサット5 F4

インマルサット5 F4(Inmarsat-5 F4)は、英国に本拠地を置く衛星通信会社の大手インマルサットが運用する通信衛星で、スペースXが同社の衛星を打ち上げたのは今回が初めてだった。

衛星は米国のボーイングが製造した。打ち上げ時の質量は6100kg、設計寿命は15年が予定されている。

衛星には89本のKa帯トランスポンダが搭載されており、航空機や船舶といった移動体や、企業や政府機関向けに、50Mbpsのブロードバンド通信サービス「グローバル・エクスプレス」(Global Xpress)を提供する。

グローバル・エクスプレスは全5機からなる衛星システムで、2013年、14年、15年に1機ずつ打ち上げられ、すでに2015年12月からサービスが始まっている。今回打ち上げられたF4は、その4機目となる。

インマルサット5 F4の想像図 (C) Inmarsat

今回は使い捨て打ち上げ

ファルコン9(Falcon 9)はスペースXが開発したロケットで、同社の主力ロケットとして運用されている。最大の特長は第1段機体を回収、再使用できることで、同社はこれにより打ち上げコストの大幅な低減を目指している。

しかし今回は、衛星の質量が6100kgと大きく、ロケットの能力を最大に使う必要があったため、機体の回収は実施されなかった。また、着陸脚や安定翼、スラスターなど、再使用に必要な部品もすべて取り外して軽量化した、完全に使い捨て前提での打ち上げとなった。

使い捨て打ち上げは今年3月以来で、現行の「ファルコン9 フル・スラスト」(Falcon 9 Full Thrust)では2回目となった。

スペースXは、回収が可能な上限について明らかにしていないが、過去の打ち上げの記録から、今回のような静止トランスファー軌道への打ち上げの場合は5400kg前後に境目があるものと推測される。

ファルコン9の次の打ち上げは6月2日に予定されている。この打ち上げ「ドラゴン」補給船運用11号機(Dragon CRS-11)を国際宇宙ステーションに送り届けるとともに、第1段機体の回収にも挑む。またドラゴンCRS-11の機体は、過去のミッションで使用されたものを再使用する。

続く6月15日には、ブルガリアの通信衛星「ブルガリアサット1」(BulgariaSat-1)の打ち上げも予定されている。この打ち上げでは、今年1月にイリジウムNEXTを打ち上げた機体を再使用する予定で、ファルコン9の再使用打ち上げはこれが2回目となる。

また現在、エンジンの推力を上げるなどし、打ち上げ能力を強化した「ファルコン9 ブロック5」の開発も進んでいる。同社CEOのイーロン・マスク氏によると、ファルコン9 ブロック5の運用が始まれば、今回のような重い衛星の打ち上げの場合でも第1段の回収ができるようになり、機体の回収や再使用も、現在の試験的な運用から、標準的な仕様になるという。

ファルコン9 ブロック5(Falcon 9 Block 5)の初の打ち上げは、今年の末に予定されている。

打ち上げを待つファルコン9 (C) SpaceX

ファルコン9の打ち上げ (C) SpaceX

超大型ロケットの準備も進む

ファルコン9の再使用への取り組みが進む一方で、スペースXは超大型ロケット「ファルコン・ヘヴィ」(Falcon Heavy)の初打ち上げに向けた準備も進めている。

ファルコン・ヘヴィは地球低軌道に63.8トン、静止トランスファー軌道に26.7トンという、現在運用中のロケットの中で、最も強力な打ち上げ能力をもつ。ファルコン9を中心に、その両脇にさらに、ファルコン9の第1段を装着したロケットで、一見するとファルコン9を3機束ねたような姿をしている。

既存のファルコン9を流用することで低コスト、低リスクで超大型ロケットを開発できるとされたが、実際にはマスク氏が「思っていた以上に難しかった」と語るほど開発は難航し、ファルコン9の失敗などの影響もあり、当初の予定から大きく遅れている。

打ち上げ日はまだ決まっていないものの、スペースXでは今年の夏の終わりごろを目処にしているという。また4月末には、テキサス州にある同社の試験場において、ファルコン・ヘヴィの中央に位置する機体の燃焼試験を行ったことが明らかにされている。

この初打ち上げでは、ブースターにあたる両脇の機体を発射台近くの陸地に、また中央にある機体を海上の船に着陸させて回収する予定で、さらに第2段機体の回収も試みることが明らかにされている。第2段の回収についてマスクCEOは「成功する確率は低いものの、やってみる価値はある」と語っている。

超大型ロケット「ファルコン・ヘヴィ」の想像図 (C) SpaceX

今年4月末に行われた、ファルコン・ヘヴィの中央機体の燃焼試験 (C) SpaceX

参考

Inmarsat-5 F4 Mission
Inmarsat-5 F4 mission - Inmarsat
Inmarsat-5 Flight 4 | SpaceX
Inmarsat-5 Flight 4 | SpaceX
Live coverage: SpaceX succeeds in commercial satellite launch - Spaceflight Now