千葉大学は5月10日、光を当てることでらせん構造がほどける人工のナノ線維を開発したと発表した。

同成果は、千葉大学大学院工学研究科 矢貝史樹准教授らの研究グループによるもので、5月10日付の英国科学誌「Nature Communications」に掲載された。

細胞内に存在する線維状のナノ構造体である微小線維は、細胞形状の維持や形の制御、細胞内での物質移動を担っており、主にアクチンと呼ばれる粒子状のタンパク質がユニットとなり、らせん状に結合することで形成される。このような線維状の微小材料を人工分子で構築し、機能を持った分子をユニットとして用いれば、生体系にはない独自の機能を実現することが可能となる。

今回、同研究グループは、アゾベンゼン分子を水素結合によって6個集め、「ロゼット」と呼ばれる根生葉の形にすると、ロゼットが次々と連なり、らせん状のナノ線維を形成することを発見。さらに、これに紫外線を当てることで、らせん構造がほどけて伸びきった繊維へと構造変化することを明らかにした。線維の末端から末端までの直線距離は、2μm程度から10μmまで大きく変化するという。

紫外線照射による線維構造の変化を原子間力顕微鏡で観察したもの (出所:千葉大Webサイト)

同研究グループは今回の成果について、らせん構造内に内包された薬剤などを患部へ任意のタイミングで放出するドラッグデリバリーシステムや、コンパクトに折りたたまれたらせん構造から網目のような線維ネットワークを一気に広げて物質を捕捉するナノシステムなど、生体機能を高度なレベルで模倣したスマートナノマテリアルへの発展が期待できると説明している。

ロゼットの「葉」がすべて開いているときは、ロゼットは一定の湾曲率を保ちながら結合してゆき、らせん状の線維を形成する。光をあてるとアゾベンゼン分子が異性化するためにロゼットの「葉」が部分的に折れ曲がり、その結果、湾曲性が損なわれる。この局所的な構造変化がらせん構造全体で起こるため、らせん構造がほどけて伸びきった線維へと構造変化する (出所:千葉大Webサイト)