こんにちは、科学コミュニケーターの濱五十鈴です。
3月に中高生を対象に実験イベントを実施いたしました。
このイベントは、未来館だけではなく、製薬会社のバイオジェン・ジャパン株式会社とともに開催したものです。
研究経験をもつバイオジェン社員の皆さんと参加者の交流もこの企画の目玉の1つでした。


<バイオジェン社員と参加者の交流>20170421_hama_01.JPG

さて、皆さんは「未来の医療」というとどんなものを想像しますか?
今回は、「遺伝子を書きかえる医療」をテーマにしました。

イベントでは、少し未来の仮想世界の設定が与えられました。
その世界では、自在にヒトの遺伝子を書きかえられる技術が確立されています。
そして、受精卵の時、つまり産まれてくる前の自分の子どもに対して、この技術を使うことができるようになっています。
もしかしたら、遺伝病はなくなり、病気になりやすい体質は改善して、強靱な肉体や美しい容姿が思いのままになるかもしれません。
皆さんはそんな未来がやってきたらいいと思いますか?
それともいやだと思いますか?


なんとも難しいテーマですが、参加してくれた中高生の皆さんは真剣に取り組んでくれました。
そして、たくさんの貴重な意見をいただきました。


<ディスカッションの内容を発表>20170421_hama_02.JPG

実は、この設定は完全に仮想のものではありません。
ここ5年ほどで飛躍的に成長し、注目されている「遺伝子を書きかえる」技術として「ゲノム編集」があります。
以前からある「遺伝子組換え」に比べて、格段に効率も精度も上がっているのが特徴です。


このブログ上でも何度か登場して来た言葉ですね。
また、未来館の『みらいのかぞくプロジェクト』でたびたび取り上げて来たテーマでもあります。


以前、科学コミュニケーターの鈴木の記事でもご紹介いたしましたが、
ゲノム編集技術を使って、ヒト受精卵の遺伝子を書きかえる研究はすでに行われています。


そして3月に新たな論文が発表されました。
鈴木のご紹介した論文では、1つの卵子に精子が2つ入りこんだために正常に成長が進まない受精卵を使っていました。
しかし、今回の論文では、ある遺伝子に変化をもつ患者さんたちから提供された卵子と精子、それぞれ1つずつからできた正常な受精卵を使って、遺伝子変化を書きかえる実験を行いました。


いずれの論文でも、重度の貧血を起こす遺伝子変化を治療の対象としていました。
今回のイベントでも、鎌状赤血球貧血症を引き起こす遺伝子の変化を架空の患者サンプルによって遺伝子診断しました。


<電気泳動実験>20170421_hama_03.JPG

鎌状赤血球貧血症は、すでにゲノム編集によって治療する試みが始まっています。
ただし、この場合は受精卵ではなく、血をつくる元となる造血幹細胞などが対象となります。
(受精卵にゲノム編集を行った場合は、産まれてきた子どもだけでなく、その子孫にも影響が及びますが、造血幹細胞への実施の場合は、影響は本人までにとどまります)


まだ未来館でゲノム編集実験を体験いただくことはできませんが、遺伝子を書きかえる技術として、大腸菌の遺伝子組換え実験をしました。
オワンクラゲが持っている光るタンパク質GFPの遺伝子を大腸菌に組み込む実験です。


<紫外線を浴びて光る大腸菌>20170421_hama_04.JPG


皆さん見事に大腸菌に遺伝子を組み込むことに成功しました!!


なんとこのイベントは2日間にわたる実験でした。
しかし、2日目も誰1人欠けることなく、皆さん集まってくださいました。
熱心な質問が飛び交い、参加者同士が段々と仲良くなってゆき、最後には以前から友達だったようになっていくのもとても印象的でした。

さて、前半にお聞きした問いに戻りますが、皆さんは受精卵への遺伝子の書きかえについてどう思われますか?


現在、受精卵を取り扱う研究にはたくさんのルールがあり、ゲノム編集を施された人間は誕生していません。
しかし、私たちの心の準備より先に科学技術が成長してゆく場合がたくさんあります。
ゲノム編集技術もそうです。
急激な技術の成長に対応してゆくために、今、世界中でゲノム編集技術をどう扱ってゆくのかを議論している最中です。
日本でも私たち市民の意見が必要とされています。
このブログのコメント欄からでも皆さんのご意見をお待ちしております。
また、未来館においでいただいた際には、皆さんのご意見を集めるために設置された、5階常設展示フロア内のオピニオンバンクへ、ご意見を残していただければ幸いです。


文末になりましたが、この実験イベントをつくることが未来館での私の最後の仕事でした。
3月末をもちまして、私は未来館から巣立ちました。
参加者の皆さんのお帰りを見送りながら、我が子の旅立ちを見送る母のような気持ちで、思わず泣いてしまいそうでした。
(こんなに大きな子どもたちはいませんが(笑))


未来館でのイベントに参加してくれた全ての方が、少しでも科学への興味を深め、その気持ちを持ち続けてくれたらと祈るばかりです。
ありがとうございました。



Author
執筆: 濱 五十鈴(日本科学未来館 科学コミュニケーター)
事故や病気のために手足の不自由になった人の治療を目指して、再生医療の研究に6年間携わり、博士号(医学)を取得。2012年春より未来館へ。  科学のお話を通じて多くの人を笑顔にしたいと思い、科学コミュニケーターになりました。 目指せ!人類70億、総笑顔!!