イソップ寓話に「アリとキリギリス」があります。これからどういう人生を歩むのか、社会人になったということは、その最初の一歩の地点に立ったということ。これから自分自身の人生をデザインしていくことになります。

初任給レベルでは、そう余裕はありません。心しないと、次第に問題が大きくならないとも限りません。社会人になったら、問題を先送りしないように、しっかりと生活設計を立ててみましょう。

一人前の人間として、最初に必要なことは何?

自立して生活できるスタイルを成立させる……社会人になってひとまず収入を得るようになったので、最初に自立して生活できる仕組みを作りましょう。親元通勤の場合は、家賃や光熱費があるものとして組み立ててください。また前年度収入がなかった新入社員は給与から差し引かれる税金も少なく、次年度以降のことを考えると、少し余るくらいの生活設計が大切。当然万一に向けての貯蓄も必要です。各種手当は社会状況によっては、なくなる場合もあります。生活を広げないように、基本給のみをベースに考えましょう。

基本生活費以外の使い道を考える……生活設計に基づいて、最低限の生活費を除いた残りを「自分のスキルアップのための投資」「小遣い」「貯蓄」などに振り分けます。これからの時代は会社員でも勉強が必要な時代です。何にどれくらい投資するかを考えましょう。友人との飲み代や明日の活力のためのレジャー費も必要です。もちろん社会人になった以上、万一の場合の入院費なども親に頼らず、自分で工面するのが原則です。そのための貯蓄も必要です。おそらく、今まで通りに考えていたのではとても足りないと思います。どれを優先させるかを長期的な視点で考えるのがライフプランニングなのです。基本生活費を極力抑えるのがポイントです。そうすれば投資や小遣い、貯蓄のための資金は増えます。

社会人1年生にふさわしい生活を!

親元での暮らしに基準を合わせてはだめ!……上記のように、自分への投資や遊びや貯蓄など、より多くのお金を回すためには、基本生活費を抑える必要があります。以前のレポートにも書いたことがありますが、親の扶養の下での暮らしは親の実力であり、それと同じ暮らしを社会人1年生が求めること自体間違いです。1年生にふさわしい生活レベルを考えて、将来に備えるスキルアップや貯蓄に投資をしましょう。

運用の価値時間って知っていますか?……運用の価値時間とは、時間が生んでくれる価値のことです。貯蓄の利子のようなものです。早くから貯蓄をすれば、時間がたつにつれて利子分が増えていきます。下図はその一例を示したものです。

運用の価値時間の事例 (C)佐藤章子

Aさんは社会人になったと同時に年間20万円の投資を毎年行ったとします。4%の利回りは高すぎると思うかもしれませんが、不可能ではありません。たばこ代、ペットボトル代、コーヒー代など、日常のこまごましたものでも年間にすれば相当の金額になります。通常の貯蓄とは別に無駄を省いた分で冒険してもよいのではと思います。Aさんはその後、30代半ばで新たに金額の投入をやめて、それまでの投資分の運用だけ継続しました。点線で表した部分が運用の価値時間です。時間が利益を生んでくれます。

一方Bさんは、当初の生活設計ができていず、子供ができて慌てて資産形成に目覚めました。同じように年間20万円を4%で運用しましたが、Aさんの倍以上の投資金額にも関わらず、65歳での資産は同じ1,000万円でしかありません。つまり先手必勝! なのです。Aさんが30代以降も同様に年間20万円投資を継続すれば、65歳時点で2,000万円となります。新入社員の時は、その先手必勝のチャンスです。問題は投資の額や利回りではなく、早くから着手して、運用の価値時間を活用することなのです。

初任給は何に使う?

前出の通り、しっかりと生活設計をしたのであれば、初任給をセレモニーに使うゆとりはないでしょう。「親に感謝を込めて何かプレゼント」も聞こえがよいですが、将来に向けての自分への投資や貯蓄を削るような無理をすることはありません。記念に親と食事会などを考えるのであれば、「1か月分の小遣いを節約したから、その分で一緒に食事をしよう」と言えば、親は子供の成長を喜ぶと思います。感謝のお花でもよいと思います。幸いにも入社直後はいろいろセレモニーで忙しく、おごってもらえる時期なので、それほど小遣いの出費は多くないと思います。

自分への記念にしたい場合は、それこそ自分がコレ! と思うものを記念に買ったり、行きたいところに行ったりすればよいと思います。一例として、純金の購入などはどうでしょうか。買えるグラム数が少ないと手数料が割高になりますし、その時の相場状況が購入にあまり適してない場合もあります。それでも多少とも資産にもなり、これから資産を増やしていく意思表示の第一歩としては、記念になると思います。予算に応じてプラチナやコインでもよいと思います。もし、ライフプランニングの上で資産形成の一つとして金への投資も検討しているのであれば、初任給では記念の現物を、その後は純金積立などを続ける方法もあります。

これからキャリアを積み、人間としても成長し、資産も築いていく過程のまだ底辺部分にいることへの自覚が大切です。ふさわしい暮らしを探りながら時間とお金を有効に使ってください。

<著者プロフィール>

佐藤 章子

一級建築士・ファイナンシャルプランナー(CFP(R)・一級FP技能士)。建設会社や住宅メーカーで設計・商品開発・不動産活用などに従事。2001年に住まいと暮らしのコンサルタント事務所を開業。技術面・経済面双方から住まいづくりをアドバイス。

※イラストは本文とは関係ありません