東京都内から電車で1時間ちょっとで行ける埼玉県の"外秩父"と呼ばれるエリアは、南関東で日帰りハイキングを楽しむには最適なエリアだ。奥秩父と異なり、この辺りの山は標高が1,000mに満たない低山が中心で、登山初心者や子ども連れのファミリーでも、比較的気軽に楽しむことができる。

低山ながら豊かな自然が満喫でき、眺望も楽しめる外秩父のハイキングコース(石尊山頂上より)

今回は、東武東上線・JR八高線の「小川町」駅から、石尊山(344.2m)、官ノ倉山(344.7m)、金勝山(264m)の3つの山頂を巡り、途中、金勝山山頂付近にある「小川げんきプラザ」で、プラネタリウムも鑑賞できるハイキングコースを紹介しよう。

ユネスコの無形文化遺産の和紙に触れる

今回のコースのスタートとなる小川町駅へは、池袋から東武東上線の急行で1時間10分ほど。小川町は「和紙のふるさと」として知られ、隣接する東秩父村とともに、2014年に手漉(す)き和紙の技術がユネスコの無形文化遺産に登録された。駅周辺を歩いていると、和紙や和紙を使った民芸品専門店の他、日本酒の醸造元などが見られ、土地に息づく伝統が大切にされている町だということがよく分かる。

小川町は「和紙のふるさと」として知られ、2014年にはユネスコの無形文化遺産に登録された

さて、最初に目指す石尊山や官ノ倉山方面に向かうには、駅から「小川町駅(西)」交差点を渡って、「大関通り」(国道254号)を進む。200mほど行くと、うっかりすると見逃すかもしれないが、電柱に「外秩父七峰縦走ハイキングコース」と書かれた案内板が取り付けられているので、案内板の矢印に従って右折しよう。

外秩父七峰縦走ハイキングコースとは、これから向かう官ノ倉山を含む外秩父の7つの峰々を巡りながら、大里郡寄居町に至る42.195kmを歩くハイキングコースで、年1回春頃に、同コースを歩くハイキング大会も行われている。ここからしばらくは、外秩父七峰縦走ハイキングコースを歩いていくことにしよう。ポイント毎に案内板が出ているので、迷うことなく歩きやすい。

しばらくは外秩父七峰縦走ハイキングコースを歩いて行こう

ハイキングにぴったりの無農薬の梅干し

所々に梅が咲き残る山里の風情を楽しみながら歩いていくと、駅から20分ほどで八幡神社という広々とした境内の神社が見えてくる。神社付近の無人スタンドでは、無農薬の天日干しの梅干しが100円で売られていたので、購入してみた。一粒味わってみると、自然の陽光をたっぷりと浴びた梅干しはミネラルたっぷりで、汗で塩分を失いやすいハイキングのお供にはピッタリだ。

購入した無農薬の天日干しの梅干し

ハイキングコースから少し外れることになるが、八幡神社の裏手にある「穴八幡古墳」にも立ち寄ってみよう。この古墳は、埼玉県内でも最大級の規模を持つ方墳で、小川盆地を一望できる高台に位置することから、この辺りを治めた有力者が被葬されているのではないかと言われている。

八幡神社の裏手にある「穴八幡古墳」

さて、ハイキングコースに戻り、再び歩を進めよう。田園風景の中を西へ西へと進み、飯田川という小さな流れを渡って、長福寺の門前を通過する。間もなく、未舗装の土の道に入ると、少し先の路傍に「馬頭尊」がまつられており、その隣に気になるものを見つけた。

大正9(1920)年に建てられた当時の村の境を示す石柱で、石に刻まれた文字を見ると、「南 大河村 北 竹澤村」とある。両村とも1955年に小川町と合併し、現在は存在しない村だ。なんだか、タイムスリップしたような気分になった。

大正時代に建てられた村境を示す石柱。このような石柱があるということは、この山道が当時は村の人々の重要な生活路だったのかもしれない

群馬の名峰・赤城山も見える絶景

山道を抜け、その先にある笠原の集落を奥に進むと、左手に公衆トイレがポツンと建っている。石尊山、官ノ倉山を登り終えるまで、ここからしばらくはトイレがないので、ここで用を済ませておいた方がいい。トイレの少し先に、「不動の滝入口」と書かれた木製の柱が立っており、ここから山道に入っていこう。いよいよ、本格的なハイキング開始だ。

清流に流れ落ちる「不動の滝」。手を水につけてみるとヒンヤリ冷たい

杉木立の中を10分ほど進むと、右手の沢に小さな木の樋(とい)があり、そこから水が流れ落ちている。どうやら、これが不動の滝のようだが、想像していたのより随分とこぢんまりとした滝だ。

滝と道を挟んで反対側の崖上には「北向不動」という不動明王が、笠原の里を見下ろすように北向きにまつられている。お堂に至る石段が少し急だが、手すりもあるので、時間に余裕があるなら、ぜひ拝んでおきたい。

ここから先は、次第に山道が険しくなるので気合いを入れていこう。滝からおよそ15分、石尊山山頂の手前は特に勾配が急で、途中には、鎖につかまりながら登っていく「鎖場」もある。額に汗をかきながら更に登っていくと、石尊山山頂(344.2m)に到着する。ここは大変見晴らしが良く、北側には冠雪した群馬の名峰・赤城山も見えた。東側に広がるのは、小川町の町並みのようだ。

はるか遠くに見える冠雪した群馬の名峰・赤城山

さて、一息入れたら次は、官ノ倉山の頂上(344.7m)を目指すが、官ノ倉山までは尾根道を歩き、わずかなアップダウンを経て、10分もかからない。こちらも見晴らしが良く、南側に外秩父七峰縦走ハイキングコースに含まれる笠山(837m)と堂平山(875m)が並んで見えたのが印象的だった。