すばる望遠鏡の主焦点カメラによる観測から、115億年前の宇宙における中性水素ガスの分布が明らかになった。同成果は、大阪産業大学の馬渡健氏、東北大学、JAXAらの研究グループによるもので、1月10日付の英国科学誌「Monthly Notices of the Royal Astronomical Society」オンライン版に掲載された。

ガス中の中性水素は、背景にある天体からの光のうち特定の波長のみを吸収するため、背景天体のスペクトル中に特徴的な吸収線が現れる。これまでの中性水素ガスの観測は、遠方でも明るいクエーサーと呼ばれる天体が背景光として利用されてきた。しかし、観測できるクエーサーは数が限られているため、調べたい領域のなかで一点のガス情報しか得られないことがほとんどあり、領域内でガスがどのような分布をして広がっているのかという情報を得ることが望まれていた。

今回、同研究グループは、遠方宇宙の画像から中性水素ガス分布を面的に調べる新しい手法を開発した。同手法では、宇宙でありふれた銀河を背景光として利用し、かつ特定の波長の光のみを通す狭帯域フィルターで撮られた画像を用いる。

同手法を、過去にすばる望遠鏡搭載の主焦点カメラ「Suprime-Cam」で行った115億年前の宇宙における大規模な銀河探査のデータに対して適用したところ、これまでで最も広い視野の地図を複数の天域において描き出すことに成功。探査天域には「SSA22」領域という原始超銀河団も含まれているが、同原始超銀河団では、中性水素ガス濃度が探査領域全面に渡って一般領域よりも顕著に高いことが明らかになった。

一方で、原始超銀河団中での銀河と中性水素ガスの分布を局所的に見比べると、必ずしも銀河が最も密集している部分にガスも多いというわけではないこともわかった。これは、中性水素ガスが個別の銀河の周囲にだけあるのではなく、原始超銀河団領域全体にわたって薄くのっぺりと広がっていると解釈できる。SSA22領域では中性水素ガスが探査領域全面に渡って多く見られるため、実際はさらに大きく1億6000万光年以上にわたって広がっていると考えられる。このことは、1億6000万光年という超銀河団程度の大きさの構造が、初期宇宙において既に存在するという事実を示している。

同研究グループは今後、SSA22を含む複数の原始超銀河団でガス分布と銀河分布の関係を、超広視野主焦点カメラHSCを使い統計的に調べていきたいとしている。

115億年前の原始超銀河団領域における銀河分布(左上)と、すばる望遠鏡の主焦点カメラ「Suprime-Cam」で撮影された画像(右)。赤色が濃い部分ほど中性水素ガスが多い領域になっている。水色四角は原始超銀河団に所属する銀河を表す。中性水素ガスが必ずしも銀河分布に正確に沿っているわけではないことがわかる (C) 大阪産業大学/国立天文台