京都大学(京大)は3月24日、ミクロの世界での水の流れを表す式(ストークス方程式)を用いて、ヒト精子の運動とその周りの液に現れる特徴的なパターンを見出すことに成功したと発表した。

同成果は、同大 白眉センターの石本健太 特定助教らによるもの。詳細は米国物理学会の学術誌「Physical Review Letters」に掲載された。

生物のオスから射精された精子は、メスの卵に到達するためにべん毛を使ってメスの体内を泳いでいくことが知られているが、この遊泳能力が落ちると、男性不妊を引き起こすと考えられ、ヒトの不妊治療においては、精子の運動率の調査が行われている。また、生物によって多少の差はあるが、精子の大きさは数十μm程度であり、水の粘度の影響を受けやすいことも分かっており、これまでの研究では、ミクロの世界での水の流れを表すストークス方程式を用いて、精子の泳ぎの仕組みが調べられてきた。しかし、同方程式は、泳ぎ方の形状情報だけで、微生物の運動を決定できるものの、求められた泳ぎ方を実際の精子の顕微鏡映像で検証した例はこれまで報告されていなかったという。

今回、研究グループでは、同方程式の答えと、実際の精子の運動を比較し、数理的アプローチの有効性の検証を行ったほか、同方程式は、微生物の泳ぎ方と微生物のまわりの液体の流れのパターンとの間に強い関係があることが知られていることから、精子のまわりのパターンから、精子の特徴的な泳ぎのパターンを抽出し、精子運動を簡単な数式で表現することにも挑んだという。

具体的には、実際のヒト精子が泳ぐ様子を高速カメラで撮影。画像解析を行い、シミュレーション結果と比較したところ、観測結果を観測誤差の範囲で再現できることを確認したとする。また、精子まわりの液の流れパターンを抽出したところ、従来考えられてきた尻尾から押し出されるような単純な流れではなく、ひねりながら押したり引っ張ったりを繰り返すリズミカルな流れが生じていることを確認したほか、これらの流れのパターンは、精子が泳ぐ際の力の分布パターンで表せることが示されたとのことで、これにより、比較的単純な方程式で表現できることを突き止めたという。

今回の結果を受けて研究グループでは、今回の手法は、さまざまな種類の遊泳微小生物の運動に適用できる可能性があるとするほか、今回得られた数理モデルを用いることで、卵管内などの狭く複雑な形状内での精子の運動や、多数の精子がいる場合の集団的な運動といったような、より生体内に近い環境に対しても、数理的アプローチで運動を調べることができるようになる可能性があるとしている。そのため、今後、そうした研究を進めていくことで、精子の運動の様子のさらなる解明や、受精に必要な精子の力学的機能の理解につながり、不妊治療の発展にも貢献できるのではないかとコメントしている。

今回の研究のイメージ図 (出所:京大Webサイト)