多様な燃料を使えるロータリーエンジンの可能性

ロータリーエンジンは、燃焼室が一般的なレシプロエンジンの丸いピストンと違い、四角い形状となるため完全燃焼が難しい。なおかつ、ローターの回転によって燃焼室が移動していくため、燃焼室の温度は冷えやすい傾向にある。そのため排ガス浄化においては、燃焼温度が低いことにより窒素酸化物(NOx)の排出は少ないが、炭化水素(HC)の排出量が多く、それはすなわち燃費がよくないという弱点にもつながっていた。

一方で、過去に発表された水素ロータリーエンジンは、水素でもガソリンでも稼動する。この開発で見えてきたのは、多様な燃料でエンジンを動かせる適応力の高さだ。藤原氏はクルマを走らせるだけではないロータリーエンジンの可能性を語る。

「地方自治体などの話を聞いてみると、災害に備え自前で発電機を準備するのは、日常的な維持管理を含め、費用負担や労力が大きすぎ、なかなかできないと言います。その点、燃料に多様性のあるロータリーエンジンを発電に使うEVのレンジエクステンダーがあれば、通常は業務にクルマとして利用でき、万一の際にはガス燃料でもロータリーエンジンは稼働させられるので、たとえば、地方はプロパンガスの需要が多いと思うので、災害時の短期間であればそれで発電し、電力を得られます」

ロータリーエンジンが今、新たな使命を帯びる

「コンビニエンスストアなども地方ではプロパンガスが設置されているでしょうから、日常的な配達などでレンジエクステンダー付きのEVを利用してもらえば、災害時には冷蔵庫などの電力を、プロパンガスを燃料に維持することができるので、数日間は救済の拠点などにできるでしょう」という藤原氏の言葉には説得力がある。

社会貢献につながるマツダのEV

従来、クルマの性能や機能を考えるときは走行性能にばかり目がいきがちだが、マツダの独自性にもつながるロータリーエンジンを発電用に活用し、EVとしての走行距離を伸ばしながら、万一の際には災害拠点の電力を賄うという発想は、電動車両ならではである。そこまでの広い視野で、藤原氏はマツダ車の電動化の道のりを考えているのだ。

実は国の行政でも、災害時の拠点として道の駅を1つの重点候補と考えている。というのは従来、災害時の拠点としての役割は役所や学校などが担ってきたが、大規模災害が発生したとき、そうした施設が幹線道路から離れているため、救援車両の出入りに不自由したという反省があり、幹線道路に面した道の駅が注目されるようになったのだ。そして現在、道の駅への急速充電器の設置が進んでおり、同時に、EVなどから施設への給電を可能にする設備の設置も検討・実施されつつある。

EVを導入すれば、このように、従来のエンジン車では考えられなかった社会貢献の可能性を広げることができる。気候変動の抑制を含め、社会や地域に貢献する大義がクルマに備わることになる。