名古屋大学(名大)と徳島大学は3月8日、ヒト乳歯歯髄幹細胞の培養上清から見出した抗炎症性M2マクロファージ誘導因子を、劇症肝炎ラットモデルに発症後単回静脈内すると病態が劇的に改善することを見出したと発表した。

同成果は、名古屋大学大学院医学系研究科消化器内科学の大学院生 伊藤隆徳氏、石上雅敏講師、後藤秀実教授、徳島大学大学院医歯薬学研究部口腔組織学分野 山本朗仁教授らの研究グループによるもので、3月8日付けの英国科学誌「Scientific Reports」に掲載された。

劇症肝炎は、肝炎ウイルス、薬物、自己免疫肝炎などが原因となり、短期間で肝臓に広範な壊死が起こり肝不全などの他臓器不全により死に至る予後不良な疾患。劇症肝炎に対しては原因の検索・治療とともに血液浄化療法を含む対症療法を行うが、病態が進行した場合、現状では肝移植以外に治療法がない。

同研究グループはこれまでに劇症肝炎ラットモデルに対して乳歯歯髄幹細胞の培養上清を投与すると、抗炎症作用や肝再生促進作用により予後が回復することを報告していたが、幹細胞上清内に含まれる多数の液性因子群のうち、どの因子が治療効果に寄与しているかは不明となっていた。

今回の研究では、歯髄幹細胞から見出した抗炎症性M2マクロファージ誘導因子を構成する単球走化性促進因子(MCP-1)と分泌型シアル酸認識レクチン(sSiglec-9)の劇症肝炎治療効果について、D-Gal誘導劇症肝炎ラットモデルを用いて解析した。

同ラットモデルではD-Gal腹腔内投与後4日目までに多くのラットが肝不全のため死に至り、その生存率は30%程度だが、D-Gal投与後24時間で肝臓破壊を確認したのち、MCP-1/sSiglec-9を単回静脈内投与したところ、肝障害が著しく改善。予後が大幅に延長し、生存率は90%以上に改善した。

同研究グループは、リアルタイムPCRおよび蛍光免疫染色を用いて検討し、MCP-1/sSiglec-9治療は肝内マクロファージを炎症性M1型から抗炎症性M2型マクロファージへシフトさせることで肝細胞のアポトーシスを抑制し、増殖を促し、肝再生を促進したものと考察。さらにin vitroにおいて MCP-1/sSiglec-9 にて誘導したM2型骨髄マクロファージ培養上清が、初代培養肝細胞のアポトーシスによる細胞死を抑制し、増殖を促すことも見出した。

今回の結果について同研究グループは、MCP-1/sSiglec-9が生体の自己組織再生能力を引き出す劇症肝炎の有望な治療薬となり得る可能性が示唆されたものと説明しており、今後はヒト乳歯歯髄幹細胞の細胞培養液およびMCP-1/sSiglec-9の製剤化を目指し開発研究を継続していく考えだ。

今回の研究の概要 (出所:名古屋大学Webサイト)