従来の科学研究は、研究者が自身の練った構想に対して主に国の予算から資金を獲得し、実験・調査を行い、その成果を有料の学術誌に投稿するというのが一般的な流れだった。しかし、近年ではクラウドファンディングなどで一般市民からも研究資金を募れるようになったほか、一般市民が実験調査データの収集などに協力するクラウドソーシングの取り組みも進んでいる。また、学術誌のオープンアクセス化や研究成果のオープンデータ化の試みも拡大しつつあり、インターネットを通じて誰もが無料で論文やデータを利用できるような環境も整いつつある。

このように、インターネットやデジタルツールなどの活用により、研究の過程やそこで得られた情報や知識を広く共有することで科学を発展させていく試みのことを「オープンサイエンス」という。理論物理学者のマイケル・ニールセン氏が書籍『オープンサイエンス革命(紀伊國屋書店)』において提唱したものだ。

オープンサイエンスの取り組みが実現すれば、専門の研究者だけでは実現できなかった研究成果も新たに生まれてくる。Webブラウザ上に表示された写真をもとに銀河系の形状をボランティアの参加者が分類するサービス「Galaxy Zoo」がその最たる例だろう。同サービスによって新しいタイプの銀河が発見されるなどの成果が出ており、すでに50を超える科学論文が出版されている。その他オープンサイエンスの事例については、『「第二次オープンサイエンス革命」は起こせるか? - 科学研究におけるオンラインコラボレーションの事例』をご覧いただきたい。

「Galaxy Zoo」Webサイト

こういった流れに敏感なのはやはり、大学の研究者やリサーチ・アドミニストレーター(URA)だ。京都大学の研究者やURAからなる「KYOTO オープンサイエンス勉強会」は2月19日、オープンサイエンスについて考え体験するワークショップ「OPEN SCIENCE WORKSHOP みんなで始めるサイエンス」を開催した。

「OPEN SCIENCE WORKSHOP みんなで始めるサイエンス」の会場となったのは京都のコワーキングスペース「MTRL KYOTO」

「ユーザー参加型研究」に取り組む研究者たち

今回のワークショップは、オープンサイエンスのなかでもGalaxy Zooのような「ユーザー参加型研究(市民参加型研究)」がテーマ。まずはじめに、ユーザー参加型研究のプロジェクトに取り組んでいるキーパーソンらが登壇し、自身のオープンサイエンスに関する取り組みについて説明した。

古典文献から「オーロラ」を探す

京都大学大学院文学研究科の大学院生 早川尚志氏

京都大学大学院文学研究科の大学院生 早川尚志氏は、ユーラシア東西交渉史に関する歴史学的研究の傍ら、自然科学系の研究者らとともにユーザー参加型の研究プロジェクト「オーロラ4Dプロジェクト」に参加。平安時代や鎌倉時代のくずし字で書かれた古典文献から、オーロラに関する情報を発見するユーザー参加型ワークショップを開催している。

夜空に輝くオーロラは太陽活動と密接に関係しており、宇宙環境を知るうえで重要な現象である。しかし、オーロラ発生に関連すると考えられている太陽黒点の観測が始まったのは約400年前、太陽フレアでは約150年前と、その科学観測の歴史はさほど長くない。そこで早川氏は、古典文献におけるオーロラや黒点などの記述を調べることで、オーロラ研究をサポートしようと考えた。古いものでは楔形文字の文献にもオーロラ観測の記録が残っているのだという。

しかしながら研究には、さまざまな時代の、そして膨大な量の文献が必要となる。早川氏は、「日本に歴史書がどれくらい眠っているのかということですら研究対象になるような状況だが、それは研究者の手に負えるものではない。自分の家の蔵に資料が眠っていないかということを調べるという形でも研究に協力できる」と研究への参加を呼びかけた。

一般の人の協力が必要不可欠な「カラス研究」

総合研究大学院大学 学融合推進センター 塚原直樹助教

広報や教育研究支援業務を行いつつカラスに関する研究を行う、総合研究大学院大学 学融合推進センター 塚原直樹助教は2015年、「カラスと対話するドローン」を開発するためにクラウドファンディングに挑戦し、約60万円の研究費を調達した。資金面での協力という意味でもユーザー参加型の研究であると言えるが、そのほかにも一般の人たちが関われる部分は多くある。

たとえばドローンの操作は誰もがうまくできるわけではなく、ある程度の技術が必要となる。また、規制によりドローンを飛行させることができる場所も限られてくる。そこで塚原氏はドローンの飛行可能な場所を提供する人や、ドローンパイロット、パイロット養成を行う人など一般からの協力を得ながら研究を進めているという。カラスドローンの研究に加え塚原氏は、カラスの鳴き声の方言研究も進めているとのことで、音声データの収集協力者や音声解析を行える人も募集している。