産業技術総合研究所(産総研)は、次世代メモリの1つとして期待されるMRAMの参照層にイリジウム(Ir)を用いたスペーサー層を用いることで、大容量MRAMに求められる性能を達成したと発表した。

同成果は、産総研 スピントロニクス研究センター 金属スピントロニクスチームの薬師寺啓 研究チーム長らによるもの。詳細は米国物理学協会発行の学術誌「Applied Physics Letters」(オンライン版)に掲載された。

MRAMには、磁界書き込み型MRAM、電流書き込み型MRAM(STT-MRAM)、電圧書き込み型MRAM(電圧トルクMRAM)の3種類があり、参照層/トンネル障壁層/記憶層を基本構成とする垂直磁化TMR素子をベースとしたSTT-MRAMはギガビット級の大容量化が可能であることから、世界中のメーカーで製品化が進められている。

TMR素子は小さくなるほど「記憶層の記憶安定性」と「参照層の強固さ」の確保が難しくなるが、記憶層については、これまでの研究からDRAM代替向けで必要な素子直径20nm以下の実現に向けた成果が得られていたものの、参照層の研究開発はあまり行われてきていなかったことから、20nm以下のサイズに必要な性能は限定された条件でしか得られていなかったという。

今回、研究グループは、そうした課題解決に向け、極薄膜の積層技術を基本技術として参照層の強固さ向上のための研究開発を実施。その結果、TMR素子における参照層は上部強磁性体層-スペーサー層-下部強磁性体層といった3層構成において、Irを用いたスペーサー層を用いることで、素子直径20nm以下のサイズのMRAMに必要な上下の強磁性層の結合強さ1.8erg/cm2以上を示すスペーサー厚さの範囲が、これまでのルテニウムスペーサー厚さの範囲の約2倍に広がっていることを確認したという。

また、Irスペーサーを用いたSTT-MRAMの性能評価を行ったところ、データ読出特性(MR比)やデータ書込特性、耐熱性など各種特性が、ルテニウムスペーサーと遜色無いほか、性能の劣化も無く、参照層の強固さだけを高めることができたことを確認したとする。

今回の成果について研究グループは、広範囲なスピントロニクスデバイスに応用できる技術と説明しており、今後は、同技術をベースにした大容量STT-MRAMの量産化技術の確立や、他のスピントロニクスデバイスへの応用を目指すとしている。

今回開発された参照層を含む垂直磁化TMR素子断面の模式図と電子顕微鏡像 (出所:産総研Webサイト)