神奈川県藤沢市にある中高一貫女子校、私立聖園(みその)女学院では、創立以来、普遍的な価値観に基づく伝統的教育を行う一方、生徒たちが世界で活躍する10年後、20年後、30年後を見据えて「今学ぶべきこと」という視点で授業以外のカリキュラムを取り入れた革新的教育も行っている。

その一環として昨年12月にソフトバンクと協同でPepperプログラミング特別授業を開催。中学1年から高校2年までの11名が参加した。今回の特別授業では、生徒が2~3名のチームを組み、アプリ作成ツール「Choregraphe(コレグラフ)」のワークショップと作成したアプリに基づいたPepperのプレゼンテーションに挑戦した。この授業に必要なPepperと「Choregraphe」がインストールされたPCは、ソフトバンクが用意した。

各チームにPepperとPCが一台ずつ用意され開発環境が整った中で進められた

世界で通用する思考・判断・表現を「体験」しながら学んでほしい

同校は、SCP(Science Communication Program)と名付けられたプログラミング教室を、中学1年生と中学2年生の全員に10年前から展開している。さらに、中学1年生から高校2年生まで全員が4~6人のチームを組み、1年間かけて、企業や国際情勢をテーマに課題を見つけ、解決し、発表するTPW(Team Project Work)を通じて、課題発見・解決型プロジェクトにも挑戦している。これらの延長線上に、今回のPepperを用いた取り組みがあるようだ。その意図を、同校で進路指導部長を兼務している平野教頭は次のように語る。

聖園女学院中学校・高等学校 教頭 進路指導部部長 平野俊介氏

「Pepperに期待したことは、まさに“Communication”です。私たちは、様々なものを媒体として交流できます。言葉や文字、映像や画像、絵画やイラスト、電話やメールなどなど。考えてみれば私たちのコミュニケーション能力は、極めて多様です。ただし、それも、慣れることが必要で、なにもせずに豊かな交流になっているわけではありません。Pepperに期待したのは、まさに、この部分です」

普遍的なコミュニケーション能力と時代に応じたスキル習得が求められる21世紀に活躍できるように生徒を育てたい同校にとって、Pepperプログラミングは有用なのだ。

生徒同士、生徒とPepperのコミュニケーションから作成されたアプリ

「普段自分たちが利用する場所にPepperがいたらどんなコミュニケーションができるのか」というテーマのもと、生徒たちは初めて触れる「Choregraphe」のボックス(Pepperの動作や会話を設定できるモジュール)を組み合わせ、さらにそれぞれのボックスのパラメータ(Pepperにしゃべらせる台詞や動作のタイミングなど)を入力し、自分たちが思い描くコミュニケーションを実現するロボアプリのプログラミングを行った。Pepperと「Choregraphe」がインストールされたPCをネットワーク接続することで、Pepper本体で動作確認しながらプログラミングできるため、生徒たちはパソコンに向かってのプログラミングとPepperを使っての動作確認を繰り返し、特定の動作を繰り返してしまうといったエラーをデバックしながら、1時間ほどでロボアプリを完成させた。

Choregrapheでロボアプリを開発する生徒たち。ボックスを組み合わせPepperの一連の動きを設定していく

Pepperを使って動作確認を行う生徒たち

パラメータの入力に誤りがあるとボックスが赤くハイライトされエラー通知される

生徒たちが作成したロボアプリは実用的なものばかりであった。スーパーマーケットを選択したチームは、人が尋ねた商品の売り場案内をPepperが行うロボアプリ、ファミリーレンストランを選択したチームは、Pepperが注文を受け、料理が提供されるまで話し相手をするロボアプリ、病院を選択したチームは、Pepperが問診を行い最適な診療科を案内するロボアプリ、空港を選択したチームは、天候や災害等で変更となった運行情報をPepperが案内するロボアプリを作成。どのロボアプリもPepperが一方的にしゃべるだけではなく、人と会話をし、人の話す内容によって回答が変わるようプログラミングされていた。人が集まる場所で、人とコミュニケーションし、人に有益な情報・サービスを提供する、そんなPepperを実現するロボアプリばかりであった。

その中でも空港のロボアプリを作成した生徒は、緊急時案内のロボアプリにした理由を「Pepperはどんな時でも冷静に話すことができます。緊急時の案内をPepperがすることで、みんなを冷静に行動させることができるのではないかと思い作成しました。それとPepperの声はうるさい場所でも通りやすいので緊急時の案内役はピッタリだと思います」と語った。こういった発想や着眼点は、SCPやTPWといったカリキュラムを体験している同校生徒だからこそであろう。

平野教頭は「生徒たちが予想以上のアプリを作成していて驚きました。結果もさることながら、途中でおきた不測の事態にも、柔軟に、迅速に対応できていたことが、この結果に繋がっていますね。今後も定期的に開催したいと感じました」と今回の特別授業を評価した。生徒たちも、Pepperのプログラミングができる場所があるのか、講師に尋ねたり、次の開催予定を平野教頭に尋ねるなど、Pepperとプログラミングに大きな関心を抱いていた。将来、同校から、人とロボットのコミュニケーションで社会を豊かにする女性が出てくることを予感させる特別授業であった。