スタンフォード大学講師でベストセラー作家の心理学者、ケリー・マクゴニガル氏

ヒルトン東京お台場でこのほど、名刺管理サービスを提供するSansan主催による「Sansan Innovation Project 2017 働き方進化論」が開催された。ゲストスピーカーとしてスタンフォード大学講師でベストセラー作家の心理学者、ケリー・マクゴニガル氏が登壇。「働き方を変える最強のマインドセット~ストレスを仕事に活かす方法」というタイトルで、働く上でのストレスとの付き合い方について講演した。

ストレスは本当に"悪"なのか?

冒頭でマクゴニガル氏は「ストレスはすべて悪ではなく、プラスの面もマイナスの面もある」とし、アメリカの被雇用者を対象にした調査では、仕事のストレスが健康を増進していたという結果が出たことを例に挙げた。自分で仕事の内容をコントロールできるかどうかが結果に深く関わっており、「自由がない」と感じていた人は死亡率が高かった。

仕事にはストレスがつきものだとしたうえで、「ストレスは人生の一部だと思っていますか?」と会場に問いかけたマクゴニガル氏。ストレスに対してプラスの考え方をすると幸福を感じて生産性も高くなる一方で、マイナスに考えると不満度が高くやる気が起きず、燃え尽き症候群になったり健康へ悪影響を及ぼしたりするという。「捉え方を変えることで、やる気を出させることができるのです」。

また、マクゴニガル氏は空手で板を割っているイラストを自分の好きな絵として紹介し、「板はストレスをかけることで弱まっているが、同時に手にもストレスがかかっていて、板に打撃を与えることで骨密度が上がり、強化されている」と解説した。どちらもストレスがかかっている状態であることは同じだが、「板」のようにストレスが自分を弱くすると感じるか、「手」のようにストレスが自分を強くさせると思うかで、ストレスは強みにも弱みにも変化するのだ。

ケリー・マクゴニガル氏が好きという空手で板を割っているイラスト

ストレスがエネルギーとなり、自分の力になる

仕事でプレッシャーがかかっている人がいたら、どんな声をかけるだろうか。おそらく、「ストレスを力に変えていこう!」とアドバイスする人は少なく、ほとんどの人が「落ち着いて」「リラックスして」と、ストレスを軽減しようと働きかけるはずだ。だが、「ストレスは1つの兆候にすぎないので、しっかり受け止めて実行に移すべきだ」とマクゴニガル氏は言う。

ストレスに対する脳と体の反応には2種類あり、1つは「挑戦」だ。「心臓の鼓動が早くなるが、それは心臓にとっても免疫系にとってもいいこと」なのだと言う。たとえば外科医が難しい手術をしているとき、あるいはゲームをしているときなど、集中して何かをしているときにはエネルギーと勇気が出ている。これは、ストレスを受け止めてエネルギーに変えている反応だ。

一方、ストレスがなくなってほしいと思っているときに起こる「逃避」は、ほかのことをして先延ばしにしたり、深酒や食べ過ぎといった行動に出たりする。「すべきことを回避することで大事なことがおろそかになり、生産性も下がり健康にも悪影響を及ぼす」とマクゴニガル氏。そんなときはいったん立ち止まり、ストレスが大事なことを教えてくれていると考えるべきだという。「スポーツでも試験でも、『ストレスが必ず自分を助けてくれる』と思った方がうまくいく。大事な会議などでプレッシャーを感じているときも、ストレスはみなさんを助けるために来ているのです」。

ストレスは「人とつながれ」というメッセージ

続いてマクゴニガル氏は「ストレスは、人とのつながりのきっかけにもなる」とした。「チームに困難が起こったときはそれを認めること。1人ですべてを背負ってなんとかしようとするのではなく、チームを巻き込みましょう」。人はストレスを感じたときに、「周りに助けを求めることができる」、あるいは「自分は周りの役に立つことができる」と「つながり」を意識することで「希望」がわき、一人ぼっちという「恐怖」を感じなくて済み、いい結果を生むことができるという。

実際に、痛みに耐えなければならない状況で自分を支えてくれる人の存在を思い出すことで元気になったり、人前でしゃべらなければならない場面では大切な人からの励ましの手紙のおかげで高いパフォーマンスを見せたりといった実験結果も出ているそうだ。

ストレスフルな経験も、自分の糧になっていることを認識して

マクゴニガル氏は、勤めていた組織が敵対的買収にあい、残るか辞めるかの決断を迫られたときに残ることを決めたという実体験を語り、「みなさんも、自分からは好んでしたくなかった経験でも、あとになって振り返ると良かったと思えることがあるのでは?」と問いかけた。

「ストレスは、自らを変え、学び、成長するチャンスでもあります」とマクゴニガル氏は話す。 ストレスに負けそうなときは、自分の歴史を振り返り、その結果からどんなことを学んだのかを思い出すこと。また、成長できる機会だと考えること。「そうすれば希望や感謝の気持ちが生まれ、体も健康になっていきます」。マクゴニガル氏は講演を通じ、普通なら避けてしまいがちなストレスを見直し、力に変えていく心構えを提示した。