では、ICTを教育に有効に利活用するにはどうするのか。これは、最初に提言したアクティブ・ラーニングとICT機器を連携させた授業をいかに行えるかにかかるだろう。

埼玉県・飯能市にある聖望学園では、昨年からiPadの一人一台体制を採り入れた。その際にあたり、ハードウェアの選定およびデジタル教材の精査だけではなく、授業支援アプリ「MetaMoJi ClassRoom」の導入も決めた。これにより、個人個人によるiPadを使った学習のほか、生徒同士あるいは生徒対先生によるコミュニケーションを生かしたアクティブ・ラーニングが可能となった。

まず、聖望学園で見学させていただいたのは、中学1年生の数学の授業。数学の授業といえば、先生が黒板に“式”を書き、それを生徒個人個人が机に向かいノートに写すという、無機質な現場を想像する。だが、iPadを使った聖望学園の数学の授業はかなり違った。

まず、すべての生徒が先生に向かって座る“スクール形式”の授業スタイルは早々に破棄。生徒たちが机を寄せ合って向かえあわせに座る。授業というよりも“給食”の時間のようだ。ただ異なるのは、机の上にあるのが給食や弁当ではなく、iPadであるということ。

対面方式で数学を学ぶ生徒。先生は手元の端末で生徒たちの進捗状況を確認できるほか、黒板にその情報を投影できる

先生に出された課題をiPadで確認し、それを解く方法を正面の友達や隣の仲間とディスカッションし答えを導き出す。友達同士で同じ答えを導き出しても、異なる答えになっても、考えをすりあわせるという意味ではアクティブ・ラーニングの基本といえよう。

続いて、理科の授業も見学させていただいた。理科も無機質な授業になりそうなイメージが強い。こちらは、生徒同士で机を向かえあわせることはなかったが、先生と生徒の対話が活発な授業だった。私が小中学生の頃は、先生からの一方通行の授業がほとんどだったが、iPadを要所要所で絡め、生徒たちに“考えさせる”あるいは“調べさせる”時間を作っていた。

いかにICTを利活用した授業のノウハウを蓄積するか

前述したとおり、聖望学園がICT端末を一人一台体制に移行したのは昨年からだ。つまり、まだノウハウを蓄積し始めた序盤にすぎない。今後とも、より一層の研究、そして授業での活用法を磨かなくてはならない。

だが、ある生徒が筆者の問いに答えてくれたのだが、「iPadを使い始めて、授業が楽しくなった」と目を輝かせた。授業を楽しいと感じてくれることこそ、アクティブ・ラーニングの基本中の基本だ。

iPadのようなハードウェアを生徒の人数分そろえることは、資金面を解決できればクリアできるだろう。やはり資金面次第で通信環境や給電設備なども乗り越えられる。だが、一番の課題は、そうしたICT設備を使って生徒たちにいかに楽しく学んでもらうかだ。そのためには先生、そして学校がいかにそうした教育のノウハウを積めるかにかかっている。