健全な家計とは、収入の多寡ではありません。収入が多くても不健全な家計はあり、低収入でも健全に切り盛りされている家計もあります。どこがポイントで、何が違うのでしょうか。

平均値は一定の目安となる

必ずしも収入や支出が平均値以上だから健全、以下ならば不健全とは言えません。どれだけ収入を確保する力が備わっているか、想定されるリスクへの対策を持っているかで大きく違いが生じます。

それでも同年代を比較して同程度の収入や支出、貯蓄高、持ち家かどうかなどは一定の目安となります。統計局は年齢別の収入・支出・貯蓄残高などの統計値を発表しています。収入が少なめであれば、老後の生活レベルや万一の場合の対応を早めに考えておくことが求められます。支出が多い場合も同様です。支出が多めになっている理由が明確でない場合は、生活レベルを見直す必要があります。貯蓄残高については、同年齢と比較して、先々のリスクが多いと思えば、貯蓄残高を増やしておいたほうが無難だと推察できます。

また、住んでいる環境にもよります。すべてをお金で解決しなければならない都市部の生活者と農村部の生活者とでは違いがあるでしょう。

万一の場合の対応策を持っているかどうかが決め手

人生何が起きるかわかりません。だからこそ万一に備えて、せっせと貯蓄に励むことになります。例えば「住宅ローン破たんする人の特徴」で破たんする3つの要因をあげました。

例としてあげた不測の事態にたいしてだけでなく、老後への準備がなければ、不自由な老後になるのは当然です。教育資金の準備がなければ、子供は奨学金に頼らざるを得なくなり、その返済が子供に重くのしかかります。将来に備えてどのような対応策があるでしょうか。

万一の場合の対策として……

貯蓄額が多い…収入が少なくても、節約して平均以上の貯蓄を確保している節約上手の家計もあります。

資産がある…それに依存は問題ですが、賃貸物件等の副収入があれば、リスクは分散されます。親などから譲られた資産だけでなく、若い世代は預貯金だけでなく、他の金融資産や不動産等に分散することは大切です。

収入を増やせる手だてがある…専業主婦であっても、スキルの維持に努めて、万一の場合には収入を得ることができる力があれば、何よりの対処手段です。会社員の場合でも資格取得等、より広く社会に通用するようにスキルアップは欠かせません。

支出を削減する手だてがある…家族に1台ずつスマホや携帯を所有しているのが普通になりつつあります。家族間の通話は別として、やはり通信費の増加にはつながります。家計が厳しくなった時に、なくても済ませられるものをすぐさま整理し、生活スタイルを変えられるかも大切なポイントです。

一時避難の場所がある…まだ若くて親も現役であれは、いったん親に頼ることができます。親に援助してもらった部分は、生活を立て直した後に返済することが可能でしょう。一時避難できれば、生活を立て直すことができるしっかりした見通しがあり、それを親にも納得させられることが必要です。

そのほかいろいろ考えられます。ことあるごとに述べていることは、世界の子供たちが自分の力で大学に進学するのに対して、いつまでも親に頼っている日本の子供を考えると、グローバル化の時代、どちらにより力が備わるかは歴然ではないでしょうか。実際に自力で大学に行かせるかどうかは別として、子供を早くに自立する力をつけさせるのも、これから子供のためにも親のリスク対策にも重要に思います。

生活レベルを簡単に上げない

以前、ある職場で目にした光景ですが、その職場は週3日程度働く人もいればフルタイムで働く人もいました。フルタイムで働いていても手取りは10万円程度にしかなりません。ある人のケースですが、それまで無職で国民年金の保険料も払えず、全額免除の手続きをしていたそうです。しかし見ていると、少ないながらも一定の収入が確保されたとたんに、携帯をスマホに変え、DVDプレーヤーやら、その他のさまざまな家電等を次から次へ購入していました。無収入だったので貯蓄もさほどないと思われます。まだまだ将来に向けてめいっぱい貯蓄する時期なはずです。スキルを身につけて、より安定した収入を模索する必要もあるでしょう。早々にいろいろ購入するのは、人生設計として不健全に感じました。

収入がアップすれば、その分即座に生活レベルを上げるのは健全とは言えません。自分の社会的実力を冷静に見極めることが大切です。手取り10万円では親元からの通勤であれば成り立つかもしれませんが、自立しているとは言いにくいでしょう。どの段階で生活レベルを上げるかは、しっかり将来を見通して考えることが大切です。

生活設計へのビジョンがあるかどうかが大切

現在は厳しい状況でも、将来に向けてのしっかりしたビジョンがあってのことであれば、一概に不健全とは言えません。特に若い世代は、将来の安定した生活に向けて自分に投資することも大切です。現状を客観的に把握できていて、しっかりした人生設計があるかどうかが重要なのです。

健全な家計とは、どのような生活をしたいかのビジョンがあり、そのための中長期計画と短期計画があり、万一の場合の対処方法が事前に考えられている家計のことではないでしょうか。

<著者プロフィール>

佐藤 章子

一級建築士・ファイナンシャルプランナー(CFP(R)・一級FP技能士)。建設会社や住宅メーカーで設計・商品開発・不動産活用などに従事。2001年に住まいと暮らしのコンサルタント事務所を開業。技術面・経済面双方から住まいづくりをアドバイス。

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