―― ラスト・ワン・インチで意図していることはなにか。

平井氏「ラスト・ワン・インチは、ソニーが勝負する部分である。そこで一番大事なのは、『感性』にどう訴えるのかという点である。デザインやたたずまい、材質のほか、歴史やこだわりといったストーリー性も大切であり、これをお客様にうまく伝えていくことが重要である。

『感性』は重要な軸であり、ソニーは、そこにこだわってきたからこそ、他社との差異化ができたと考えている。たとえば、AI機能は徹底的に追求する必要があるが、AIそのものは機能価値であり、それはやって当たり前のこと。機能的に劣っているものは出してはいけないというのは当然である。

だが、機能や価格ばかりに、重点を置いてしまってはいけない。ソニーは一時期、ここに重点を置いてしまったこともあった。私が社長になる1年前に、副社長としてコンシューマエレクトロニクス事業を担当していたときから、感性の価値をあげることに取り組んできた。その結果、市場から評価される商品が出てきている。

私が誇りに思っているのは、『RX100のデザインを変えないで欲しい』と言ったときに、社内に議論はあったものの、そのフィロソフィーを維持し、商品に対するリスペクトを最大限に表現することをこだわってくれた点。そこにこだわったからこそ、感性という点から見ても、市場から高い評価を受ける商品が投入できたと考えている。機能と感性をいかに高い次元で組み合わせることができるか。これが、ソニーらしさにつながると考えている」