アムステルダム大学の研究チームは、天文観測衛星「フェルミガンマ線宇宙望遠鏡」が収集した宇宙ガンマ線背景放射のデータを精密解析した結果、ダークマター粒子の存在証拠は見つからなかったと発表した。データはフェルミ衛星に搭載された大面積望遠鏡によって6年以上に渡り収集されたもの。2008年にNASAが打ち上げたフェルミ衛星は、大面積望遠鏡による3時間ごとの全天スキャンを現在も続けている。ダークマター粒子同士が衝突したときに発生すると考えられている高エネルギーのガンマ線を観測できるのではないかと期待されていたが、確認できなかった。研究論文は、物理学誌「Physical Review D」に掲載された。

これまでに確認されている宇宙ガンマ線の発生源は、そのほとんどが私たちの天の川銀河の内部にあるが、その他に3000個超のガンマ線源が銀河系外で見つかっている。ただし、これら検出済みのガンマ線源をすべて合わせても、銀河系外から届くガンマ線の総量には不十分であるとされる。

銀河系外から届くガンマ線のうち75%は、宇宙ガンマ線背景放射と呼ばれ、宇宙の全方向で等方的に観測されるが、1960年代に発見されて以来いまだにその線源がわかっていない。このため、宇宙ガンマ線背景放射の一部は、宇宙に大量に存在すると考えられている暗黒物質(ダークマター)に由来するのではないか、という説もある。

全天観測から得られた銀河系外の宇宙ガンマ線背景放射分析データ。銀河系内に由来するガンマ線は灰色にマスキングされている(出所: アムステルダム大学)

ダークマターは、宇宙の全質量・エネルギーの27%程度を占めている未知の重力源であり、その正体の有力候補としては未発見の超対称性粒子「ニュートラリーノ」などがあげられている。ニュートラリーノは粒子とその反粒子が同一になるマヨラナ粒子の一種であると想定されており、ニュートラリーノ同士が衝突すると対消滅を起こして電子・陽電子対やガンマ線を生成すると考えられている。

国際宇宙ステーション(ISS)に搭載されたアルファ磁気分光器の観測データからは、ダークマター由来の可能性がある陽電子フラックスの変動が報告されているが、ほかの要因も考えられるため、磁場の影響を受けないガンマ線のデータによる検証が期待されていた。

研究チームは今回、これまでで最大のデータ数およびエネルギー範囲を対象にして、宇宙ガンマ線背景放射の精密解析を行った。宇宙ガンマ線背景放射の強度のゆらぎを調べた結果、1GeV(ギガ電子ボルト)未満の比較的低いエネルギー領域でのゆらぎの原因と、より高エネルギー領域でのゆらぎの原因という、2種類の異なる線源が明確に区別できることがわかった。

高エネルギー領域のガンマ線(数GeV以上)は、「ブレーザー」と呼ばれる天体に由来している可能性があるという。ブレーザーは、銀河中心にある大質量ブラックホールをエネルギー源とする高輝度天体ではないかと考えられているが、その正体は解明されていない。1GeV未満の低エネルギーのガンマ線のゆらぎについては、さらに謎が多く、これまでに知られているどのガンマ線放射源も新たに得られたデータとは一致しないという。

フェルミ衛星によるこれまでのガンマ線観測からは、ダークマター粒子から放射されたと考えられる明確な証拠は見つかっておらず、それは今回の精密解析でも変わらなかった。研究チームは、検出可能な信号を発するとされてきたダークマターの理論モデルのいくつかについて、今回のデータによって可能性を排除できたと説明している。「我々の測定は、ガンマ線を使ってダークマターを発見しようとしている他の研究計画を補完するものだ。等方的な宇宙ガンマ線背景放射の源をダークマターに求める余地はほとんどないことが確認できた」と研究リーダーの宇宙粒子物理学者Mattia Fornasa氏はコメントしている。