国立極地研究所(極地研)は12月16日、南極・昭和基地のある東オングル島での菌類の多様性調査の過程で、新種の菌類2種を発見したと発表した。

同成果は、国立極地研究所 生物圏研究グループ 辻雅晴 特任研究員、辻本惠 特任研究員、伊村智 教授らの研究グループによるもので、12月10日付けの日本菌学会誌「Mycoscience」オンライン版に掲載された。

南極域に生息している菌類として、約1000種がこれまでに報告されているが、日本の南極観測の拠点である昭和基地周辺に限ると31種が報告されているのみで、昭和基地周辺にどのくらいの種類の菌類が生息しているのか、はっきりとはわかっていない。

同研究グループは今回、第49次南極地域観測隊の伊村教授と辻本特任研究員が2007年12月~2008年1月にかけて東オングル島全域にわたる226の地点から採取した土壌試料に対して調査を行った。

同試料からは合計で293株の菌類が分離され、さらに分離された菌類に対して26SリボソームDNAなどの塩基配列を用いた系統解析を行った結果、新種の担子菌酵母2種を発見。それぞれ「Cystobasidium tubakii」と「Cystobasidium ongulense」と名付けられた。同研究グループによると、日本の南極観測の歴史のなかで新種の菌類が発見されたのは初めてのことだという。

また、これらの新種について詳しい生育の特徴を調べた結果、両種とも-3℃の環境で成長が可能であることがわかった。さらに、南極以外で発見されたほかのCystobasidium属菌では、成長にビタミンが必要となるが、両種は生育にアミノ酸やビタミンを必要としないことがわかった。したがって両種は、南極のような低温かつ栄養素の限られた環境での生育に適応した種であると考えられる。

同研究グループは今後、今回発見した新種の菌類の特徴が産業利用できる可能性について検討していく予定であるとしている。

今回発見された「Cystobasidium tubakii」(A・B)と「Cystobasidium ongulense」(C・D)