東北大学は12月14日、求愛ばかりしていて交尾をしないショウジョウバエの「プラトニック突然変異体」のオスがなぜ交尾をしないのか、明らかにしたと発表した。

同成果は、東北大学大学院生命科学研究科 山元大輔教授らの研究グループによるもので、12月13日付けの英国科学誌「Nature Communications」に掲載された。

山元教授はこれまでに、盛んに求愛するにもかかわらず交尾に至ることがないショウジョウバエのオスの突然変異体「プラトニック」を分離していた。今回、同研究グループは、骨形成タンパク質(BMP)の働きを制御するスクリブラー遺伝子の発現の低下が、交尾をしない原因であることを突き止めた。

BMPは、個体発生のさまざまな局面で、細胞運命の決定や細胞増殖と分化の制御をしているため、スクリブラーは発生をコントロールする遺伝子であるといえる。同研究グループは、なぜ発生に関わるスクリブラー遺伝子の機能が損なわれると成虫が交尾しなくなるのかについて調べるため、プラトニック変異体に正常なスクリブラー遺伝子を人工的に組み込み、各発達段階でそのスイッチを入れるという実験を行った。この結果、成虫になってからでは遺伝子治療はできず、幼虫のころに人工遺伝子を神経系でオンにすれば、成虫になってから交尾できるようになることが明らかになった。

また、スクリブラー遺伝子が壊れたプラトニック変異体では、交尾のための神経装置の一部が失われるが、ここで失われるわずか数個の神経細胞は、セロトニンを合成するものであることがわかった。さらに同研究グループは、プラトニック変異体のオスが成虫になった後に、セロトニンの原料である5-HTPを食べさせることで、交尾をする能力が回復することを確認している。

セロトニンはヒトでも性機能に深く影響を与え、またBMPは脊椎動物において性行動に使われる性徴の形成に関与していることから、同研究グループは、これらの生体シグナルが、広範な動物種で有性生殖に必要な形態と機能を生み出す共通の物質基盤であることが考えられると説明している。

スクリブラー遺伝子は幼虫期に働いて8つのニューロンの生存を可能にする。これらのニューロンは成虫になったのち、神経ホルモンのセロトニンを放出することで交尾を可能にする