「Microsoft HoloLens」を手にするJean-Philippe Courtois氏

2016年11月第5週から12月第1週まで、日本マイクロソフトは盛大な動きを見せていた。11月29日には、Microsoft EVP(エグゼクティブバイスプレジデント)兼グローバルセールス マーケティング&オペレーションズ プレジデントのJean-Philippe Courtois氏が来日し、12月2日から「Microsoft HoloLens」のプレオーダー受け付け開始と、デジタルトランスフォーメーション(変革)に関する取り組みを説明した。

翌日の11月30日からは、Microsoft クラウド&エンタープライズ マーケティングCVP(コーポレートバイスプレジデント)沼本健氏が来日し、11月1日に提供開始した「Dynamics 365」の招待者限定イベント「Microsoft Dynamics 365 First Look」へ登壇および、記者説明会に参加している。翌日も日本マイクロソフトを始めとする11社が協業して設立した「IoTビジネス共創ラボ」のラウンドテーブルに参加。筆者の目には米国本社からのVIP来日に伴い、関係者は忙しく動いていたように映った。

「Microsoft Dynamics 365 First Look」の基調講演を行う沼本健氏

前述のとおり両人は聴講者や記者に異なるテーマを述べているが、いずれの根底にあるのは、Microsoftが掲げる「Empower every person and every organization on the planet to achieve more」(地球上のすべての個人とすべての組織が、より多くのことを達成できるようにする)構想を実現するための、デジタル変革とクラウドの存在が大きい。Courtois氏はMicrosoft Azure戦略として、"ハイパースケール(大規模)""トラステッドクラウド(信頼されるクラウド)""ケーパビリティ(将来性)"と3つのキーワードを用いて説明した。その内容自体は目新しいものではないが、順を追って説明しよう。

執筆時点でのMicrosoft Azureリージョン(地域)は30地域を数え、さらに8リージョンの公開を予定している(最新情報はこちらのサイトで確認可能)。各地域では法整備は異なるが、Microsoftは「セキュリティやプライバシー、法令遵守を重視し、既存かつ新しい法規制に準拠」(Courtois氏)することを約束している。そして、Microsoft Azureは各種機能をオンプレミス(自社運用)でも提供することを初期段階から原則としており、利用者の需要に合わせた展開を可能にしてきた。現在はテクニカルプレビューだが、Azureをオンプレで実現する「Microsoft Azure Stack」を提供しており、利用者はパブリッククラウドを補完するため、データセンターにサービスやアプリケーションを展開するシナリオを実現できる。Courtois氏の言葉を借りれば「3つの特徴を市場に提供する(他社にはない)ユニークなクラウド」だ。

沼本氏が語ったDynamics 365は、CRM(顧客関係管理)とERP(企業資源計画)を横断したインテリジェントビジネスアプリケーションである。読者諸氏もご承知のとおりERP系に分類されるDynamics CRMとDynamics AXは日本マイクロソフトが日本語版を販売しているが、Dynamics CRMはパートナー企業が日本語化し、販売活動を行っている。このように日本マイクロソフトは国内CRM/ERP市場で後塵を拝している状況だが、Dynamics 365で大きく地図を塗り替える可能性がある。

Dynamics 365は、同「for Sales」や同「Customer Service」、同「Field Service」といったロールベースのビジネスアプリケーションを企業内の需要に応じてクラウド上に展開し、日常業務の遂行を可能にする。端的に述べれば今後も販売を継続するDynamicsシリーズはオンプレ型アプリケーションだが、Dynamics 365はコンセプトが大きく異なるクラウドソリューションなのだ。

沼本氏は導入済みCRM/ERPシステムをDynamics 365で置き換えるのではなく、既存システムでは難しいシナリオをDynamics 365やOffice 365との連携、異なるアプリケーション同士をつなげる「PowerApps」と「Microsoft Flow」で実現するシナリオを目指すと説明。Dynamics 365は「Adaptable(順応性)」を備え、連携したデータから利用者に通知をうながすといった小規模な需要を、複数のシステムをつなぎ合わせる「水平的なクラウドプラットフォームを目指し」(沼本氏)つつ、ビジネスの現場で全方位的な対応を実現する。

従業員の顧客理解度を深める顧客分析を行う「Dynamics 365 for Customer Insights」

このようにあらゆる角度からMicrosoftはクラウド(=Microsoft Azure)を推進しているが、その背景にはMicrosoftの研究機関であるMicrosoft Resarch(MSR)が1991年設立以降、長年にわたって続けてきた多様な研究結果が大きい。なかでもMachine learning and Artificial intelligence(機械学習と人工知能)分野は、ビジョンやスピーチ、言語、知識、検索の5分野に分類される多くのAPIを用意するMicrosoft Cognitive Services(認識サービス)としてローンチし、ビジネスシーンを塗り替えつつある。

Microsoft Cognitive Serviceの概要(2016年6月に日本マイクロソフトが開催した記者会見で示したスライド)

IoTビジネス共創ラボのラウンドテーブルでは、各WG(ワーキンググループ)の幹事社が活動結果を報告しているが、現在取り組んでいるソリューションとして、タブレットのカメラに映し出された人物が大人か子どもかを、顔情報や顔認識を行うFace APIで判断し、メニューを切り換える仕組みの実現を目指すという。さらに音声で料理を注文する際も、音声と文字列を相互変換するSpeech APIを利用して顧客満足度を高めたいと担当者は説明していた。

このようにクラウドやAI(人工知能)は近未来の話ではなく、前述したDynamics 365はもちろんビジネスの現場レベルで活用されるソリューションとして身近な存在なのである。Microsoftと共に日本マイクロソフトがMicrosoft Azureに注力する理由も理解できるだろう。

その日本マイクロソフトだが、2016年7月に開催した新年度経営方針記者会見を開催し、2017年度における5つの重点分野の1つとして「クラウド利用率の増加」を掲げている。「2017年度終了時にクラウドによる売り上げを(全体の)50%達成を目指す」(日本マイクロソフト 代表取締役 社長 平野拓也氏)と説明。さらに質疑応答では50%という数字は単なる通過点であり、重視しているのは顧客のデジタル変革を実現するための専門部隊設立などを発表していた。

また、2016年12月1日から2日間にわたって、全社員が顧客やパートナーにMicrosoft Azureの利用を働きかける「アポロ計画」を実施。関係者によればMicrosoft本社を始めとする世界各社でも「Azure Days」として同様のプロジェクトを実施し、ワールドワイドの取り組みだという。このようにMicrosoftはクラウドという幹、そして枝葉となる各種サービスで世界を"エンパワー"させようとしている。

プロジェクト開催に合わせて品川オフィス社内は、ポスターなどが飾られていた

プロジェクトキックオフイベントに参加する平野氏および各部門の責任役員(日本マイクロソフト提供)

阿久津良和(Cactus)