井関農機 執行役員 営業本部 副本部長の勝野志郎氏

近年、世界的に食料不足が叫ばれている一方で、日本の農業の現状は就農者の高齢化や耕作放棄地が増加している。また、農地の集積に伴い規模が拡大し、コメの価格は下落しており、消費が麦・大豆・野菜をはじめとした作物にシフトするなど、変化が激しくなっている。将来的な国内における農業を鑑みて、井関農機では茨城県つくばみらい市に「夢ある農業総合研究所」を2015年に開設した。

「これからの農業を考えたときに3つのポイントがあり、ICTによる農業生産(スマート農業)と省力・高収益型経営、担い手の育成となる。この3つを達成・拡大すれば生産者の収益が拡大し、結果として就農者も増加することで農業の持続的発展が可能となる」と語るのは井関農機 執行役員 営業本部 副本部長の勝野志郎氏だ。

夢総研では行政や研究機関、大学、企業、JA関係者などと連携を強化し、最新の栽培技術とロボット技術や、ICTを活用したスマート農業の研究・実証・普及を行っている。具体的には、大規模化に対応するため機械情報の見える化や自動化、無人化に取り組んでいる。また、コメの省力・低コスト化を図るため疎植栽培や直播栽培に加え、水田を活用した麦、大豆、野菜栽培技術など省力・高収益型経営実現に向けた研究・実証などを進めている。さらに、人材育成では生産者をサポートする井関農機グループ社員の育成に取り組んでいるほか、新規参入支援や耕作放棄地再生支援などを実施している。

夢総研周辺の実証圃場ではコメや大豆、野菜などを栽培している

夢総研は、研究室や調査・分析室、開発製造本部サテライトオフィス、先端営農技術を紹介する展示ホールを含む研究棟、省力・低コスト・多収栽培、スマート農業といった先端営農技術の実証・研究を行う実証圃場、実証圃場で収穫した作物の乾燥・調製に関する研究に取り組む作業棟で構成されている。

夢総研内の展示ホールで栽培技術などを紹介するデジタル田んぼ

水田を利活用した各種野菜栽培の紹介

人材育成支援などの紹介

ICTを活用したトラクタの操作体験もできる

勝野氏は3つのポイントを踏まえ「生産者は省力化や低コスト化、収穫量増を求めているため、ハード面ではICTやロボットを活用したスマート農機の実証・研究や植物工場の効率化を目指した環境制御技術の研究のほか、農機から得られる機械・作業・圃場データを分析した上で有効的にデータを活用する研究を行っており、ソフト面では新しい栽培技術を実証・研究している」と先進的な営農技術には、ハード、ソフト両面からのアプローチが必要だと説く。

作業・機械管理をサポートする「アグリサポート」

農業のICT化に関し、同社では生産費の削減を図る機械作業の効率・省力化や、広域・多数・分散圃場の管理、技術ノウハウを伝承するための栽培・作業のデータ化などを挙げている。

作業・機械管理をサポートする製品の「アグリサポート」は、稲作における圃場の準備から田植、防除・追肥、収穫、乾燥調製、精米までの一連の工程に伴う機械情報・作業情報の見える化など、省力・低コスト・高品質をサポートするという。作業別時間、走行時間、アラート情報、操作分析、作業実績、燃料使用料などの情報をスマートフォンやタブレット上で見える化し、さまざまな視点から分析を行うことで作業工程の見直しなどによる作業効率やコスト削減につなげることを可能としている。

「アグリサポート」のイメージ

また、トラクタには作業経路のアシストや作業軌跡を記録するGPSガイダンスシステム「リードアイ」機能(トラクタ用アグリサポートのオプション)も備える。従来のトラクタによる施肥・薬剤散布では、あらかじめ幅を決めて目印を確認しつつ走行しなければならなかったが、リードアイはGPSと連動しているため、従来よりも正確な作業を可能にするとともに効率性の向上も期待できる。

「リードアイ」のシステム構成

タブレットでリアルタイムに状況を把握