情報通信研究機構(NICT)は11月15日、人為的な設計によって新たな生物分子モーターを創り出すことに成功したと発表した。

同成果は、NICT未来ICT研究所 古田健也主任研究員らの研究グループによるもので、11月14日付けの英国科学誌「Nature Nanotechnology」オンライン版に掲載された。

細胞の中で働くタンパク質は、数~数十nm程の大きさであり、周囲の分子による激しい熱運動にさらされているが、細胞内の物質輸送を担う生物分子モーターはこの状況においても、高い効率で自律的に一方向の運動を行うことができる。この一方向性の運動は、エネルギー源であるATPを加水分解して、この反応に共役した大きな構造変化を起こすことにより作り出されるものと考えられているが、ナノメートルスケールにおける本質的な要素を明らかにすることは未解決の課題となっていた。

この基本原理を明らかにするために今回、同研究グループは、既知の機能モジュールを順次組み合わせていく構成的手法を採用。生物分子モーターの一種であるダイニンをベースとして、これに本来の微小管と結合するモジュールではなく、ダイニンとは無関係な、アクチン繊維に結合するアクチン結合タンパク質モジュールを融合した。

ダイニンの微小管結合部位をアクチン結合部位に置き換えた

運動に際して、微小管との結合部位がATPを加水分解する本体部分と密接に連携する必要があるならば、アクチン結合部位に置き換えるとダイニンは運動能を失うことが予想されるが、実験の結果、本来の結合相手ではないアクチン繊維と結合しても、これを一方向に運動させる能力が発現することがわかった。さらに、同研究グループは、これらの機能モジュールの組み合わせ方を変えることで、運動方向を逆転させることにも成功している。これらの結果は、自然が創り出した機能モジュールを人為的に組み合わることによって、新たな分子マシンを構築できたことを示しているといえる。

同研究グループは、今回の成果により、熱運動の下での運動創出の原理に迫ることができたとしている。またこの原理は、タンパク質のほか有機材料などのナノ材料にも応用が期待できるため、新たな分子マシンの設計や構築に役立つ可能性があるという。