神戸大学と東京工業大学(東工大)は10月17日、コンピュータシミュレーションを用いた研究に基づいて土星リング形成に関する新たなモデルを発表した。

同成果は、神戸大学大学院理学研究科惑星学専攻 兵頭龍樹研究員、大槻圭史教授、東京工業大学 地球生命研究所 玄田英典特任准教授、パリ地球物理研究所/パリ・ディドゥロ大学のシャノーズ教授らの研究グループによるもので、10月6日付の米国科学誌「Icarus」に掲載された。

太陽系の巨大惑星は多様性に富むリングをもっており、たとえば土星リング粒子は95%以上が氷からなっているが、天王星や海王星のリングは暗く、リングを構成する粒子は岩石成分も多く含むことが示唆されている。しかし、リングの起源には不明な部分が多く、またその多様性の原因を説明することはできていなかった。

今回、同研究グループは、約40億年前に太陽系内で起こった「後期重爆撃期」と呼ばれる巨大惑星の軌道不安定期に注目。後期重爆撃期に、太陽系外縁の海王星以遠の軌道に数千個存在していたと考えられているカイパーベルト天体が、巨大惑星からの潮汐力により破壊されるくらい惑星から十分近いところを通過する確率を見積もった。この結果、土星、天王星、海王星は、少なくとも数回のそのような大きな天体の近接遭遇を経験することがわかった。

次に、同研究グループは、大きなカイパーベルト天体が巨大惑星の近傍を通過する際に惑星からの潮汐力を受けて破壊される過程について、コンピュータシミュレーションを実施。シミュレーションの結果は、カイパーベルト天体の初期の自転の状態、惑星への最接近距離などによってさまざまであるが、多くの場合で、破壊されたカイパーベルト天体の初期質量の0.1~10%程度の破片が、巨大惑星周りに捕獲されることがわかった。

さらに、捕獲後の破片の長期的な進化について、国立天文台が所有する計算機等を用いたシミュレーションにより調べたところ、捕獲直後の破片は数キロメートルサイズと大きなものであるが、その後、破片同士の衝突を繰り返すことによって徐々に粉々になるとともに軌道も円軌道に近づき、現在観測されるリングが形成されることがわかった。

また、このモデルでは、土星と天王星のリングの組成の違いも説明できる。天王星や海王星は土星に比べて惑星本体の密度が大きいため、惑星からの重力の影響を強く受け、ごく近傍を通過するような遭遇が可能となるが、土星の場合には惑星本体の密度が小さく、質量に対して惑星半径が大きいため、ごく近傍を通過しようとすると土星本体に衝突してしまう。

したがって、惑星近傍を通過するカイパーベルト天体が内側に岩石核、外側に氷マントルという二層構造をもっていた場合、天王星や海王星では、岩石核まで破壊・捕獲され、岩石成分も含むリングが形成されるが、土星は通過する天体の氷マントルのみが破壊されるため、氷からなるリングが形成されると考えられるという。

リングの形成過程の概念図。点線は、巨大惑星の重力が強く働き潮汐破壊が起こる臨界距離 (a)カイパーベルト天体が巨大惑星に近接遭遇をする際に、巨大惑星の潮汐力によって破壊される (b)潮汐破壊によって破片の一部が巨大惑星まわりに捕獲される (c)破片同士の衝突によって捕獲された破片は破砕され、軌道も徐々に円軌道に近づき、現在のリングが形成される