富士通研究所は10月13日、将来の自動運転実現のための高精度な監視技術向けに、76~81GHzの広帯域にわたり世界最高速で周波数を変調できるCMOSミリ波信号源回路を開発したと発表した。

同技術の採用は10月3日から10月7日まで英国ロンドンで開催されたマイクロ波技術に関する欧州最大の会議「EUMW 2016(European Microwave Week 2016)」で発表された。

先進運転支援システム(ADAS)において、夜間や降雨など悪環境時のカメラの弱点をカバーできるミリ波レーダーは重要技術の1つに位置づけられている。近年では、77GHz帯の狭い周波数を用いて車の前後方を監視するだけでなく、より広い79GHz帯を利用した周辺環境レーダーも注目されている。

周辺監視と前後方監視のイメージ図

ミリ波レーダーでは、信号の周波数速度を周期的に変調させるFMCW方式が主流だったが、同方式は歩行者と自動車など速度の異なるターゲットが接近すると、片方を見落としてしまうという問題が合った。そのため、近年では変調速度を高めることで距離分解能や対象物の速度の検知範囲を広げることができるFCM方式が期待されている。

ミリ波信号の周波数を制御する信号源回路は、ミリ波信号のパルスを常時読み込んでカウントし、カウント数に応じた電圧を周波数制御部に印加し周波数を変調する。車載レーダーに用いる回路は環境温度が150℃になっても正常動作することを要求されるが、従来のCMOS信号源回路では、温度上昇に伴って内部信号が遅延しカウント数を誤るため変調速度を速くすることができず、検知できる相対速度は50km/h程度が限界だった。

今回の技術開発では、信号源回路の中でカウント動作に大きく影響を及ぼすブロックを特定。このブロックに温度変化による遅延を補正する機能を搭載し、高温下においても正確に動作する時間補完型パルスカウンターを新たに開発した。これにより、150℃の高温環境においてもパルスを読み込むタイミングを整えることが可能となる。同回路では、ミリ波信号を80GHzにおいて1μsあたり2GHzとなる世界最高速度で周波数変調することができ、レーダーとして要求される最大検知相対速度(時速200km)を達成可能だという。

温度上昇によるパルス読み込みタイミングのエラー

また、変調されたミリ波信号の位相を1度以内の精度で計測・制御してミリ波信号のビームを任意の方向へ照射できる4チャンネル送信回路も開発し、これにより、例えば10m圏内を5cm間隔といったようにレーダーの周辺を電子的に細かくスキャンする周辺監視が実現する。

ミリ波CMOSチップ。(a)ミリ波信号源回路、(b)4チャンネル送信回路

新技術を活用すると、速度の異なるターゲットを見落とすことなく、また、時速100kmで対向した場合(相対速度時速200km)においても相手の距離と速度を検知できるため、市街地における周辺監視とともに、高速道路など高速走行時の前後方監視を可能にするレーダーの実現が期待できる。

今後は、車載レーダーの多機能化を実現するための高機能な演算を行うプロセッサなどを集積した、ミリ波CMOSレーダーチップの開発など、さらなる高機能化を進め、2020年以降の実用化を目指すとしている。