徳島大学は9月15日、ゲノム編集技術を用いてブタの遺伝情報を簡便かつ高効率に書き換える「GEEP(Genome Editing by Electroporation of Cas9 Protein)法」を確立したと発表した。

同成果は、徳島大学先端酵素学研究所 竹本龍也助教、生物資源産業学部 音井威重教授らの研究グループによるもので、9月14日付の米国科学誌「Science Advances」オンライン版に掲載された。

ブタの遺伝情報を操作するには従来、体細胞に遺伝子改変を行った後、体細胞クローン技術により遺伝子改変クローン胚を作製し、それらを受胚ブタへ移植するという手法が用いられていた。しかし、標的となる遺伝子を改変した体細胞作製率は非常に低く、またクローン胚作製には高度な手技が必要となる。さらに、体細胞クローン技術は正常な産子の作製効率が非常に低いため、遺伝情報操作ブタの作製は難易度が極めて高いことが問題となっていた。

一方、近年確立されたゲノム編集技術を用いてゲノム編集動物を作製するためには、受精卵の段階でゲノム編集を引き起こす分子(Cas9およびガイドRNA)を受精卵内に導入する必要がある。マウスや魚類などの動物においては、受精卵に分子を直接導入する際にガラスキャピラリーを用いたインジェクション法が用いられるが、ブタの受精卵は、ほかの動物種の受精卵と比べると多量の脂肪を含むため、インジェクション法を用いてゲノム編集を行うことは技術的に困難だった。

今回の研究では、電気によって卵細胞を囲む膜に一時的に穴をあけ、ゲノム編集を引き起こす分子をブタ受精卵に導入することに成功。これにより、筋肉の増殖や肥大を抑制するマイオスタチン遺伝子を操作して働かなくしたブタを作製した。作製されたブタでは、通常のブタよりもたくさんの筋肉が作られていたという。

同研究グループは同手法の確立により、遺伝情報操作ブタをこれまでよりも短期間で簡便に作製できるようになったとしており、また、ブタは生理学的、病理学的、解剖学的にヒトに近く、体の大きさもヒトに近いことから、さまざまなヒト病態モデルブタの作製が促進されることによって医学研究の発展に大きく寄与するものと説明している。

野生型のブタ(左)と今回作製された遺伝子改変ブタ(右)。筋肉の増殖や肥大を抑制するマイオスタチン遺伝子を操作して働かなくしたため、通常のブタよりもたくさんの筋肉が作られている (画像提供:徳島大学 竹本龍也氏)