日本原子力研究開発機構(JAEA)、東京大学(東大)、高エネルギー加速器研究機構(KEK)は9月13日、全反射高速陽電子回折(TRHEPD)法を用いて、グラフェンのゲルマニウム版「ゲルマネン」の原子配置の解明に成功したと発表した。

同成果は、JAEA 先端基礎研究センター 深谷有喜研究主幹、東京大学物性研究所 松田巌准教授、KEK 物質構造科学研究所 兵頭俊夫特定教授らの研究グループによるもので、9月8日付の英国物理学会誌「2D Materials」オンライン版に掲載された。

ゲルマネンはポストグラフェンとして期待される新材料。グラフェンとは異なり自然界には存在しないため、原子配置や物性については、これまで実験的に明らかになっていなかった。同研究グループは今回、アルミニウム基板上のゲルマネンに着目。原子1個分の厚みしかない極薄物質の構造決定を得意とする全反射高速陽電子回折(TRHEPD)法を用いて、その原子配列を明らかにすることを試みた。

今回の研究で用いたTRHEPD法は、10keV程度のエネルギーを持つ陽電子ビームを試料表面にすれすれの視射角で入射させ、試料表面で反射した陽電子を回折パターンとして観測するというもの。電子の反粒子である陽電子は、電子とは逆のプラスの電荷をもつため、陽電子ビームが物質に入射すると物質表面から反発力を受ける。このため、陽電子ビームを物質の表面にすれすれの角度で入射させると、陽電子が物質へ侵入する深さを表面から1~2原子層程度の極めて浅い領域に抑えることができる。

ゲルマネンのような極めて薄い物質の場合、基板の内部といったような不必要な情報をできるだけ排除しなければ正確な構造決定をすることができないため、今回はこの陽電子の表面敏感性を最大限に利用し、1原子層分の厚みしか持たないゲルマネンの原子配置を決定した。

この結果、ゲルマネンの構造が非対称化していることが示され、構造の対称性が破れていることが明らかになった。これまでに予想されている原子配置では、ゲルマニウム原子が2個真空側に突出した左右対称性な構造を持つとされていたが、今回の結果は、その予想に反したものとなる。しかし、これまでに構造以外について報告されている実験結果とは矛盾しないという。

今回、基礎となる原子配置がわかったことにより、同研究グループは、ゲルマネンを用いた省エネ・高速・小型の新しい電子デバイスの設計・開発の促進が期待されるとしている。

TRHEPD法で決定したゲルマネンの原子配置(左)とこれまでに予想されていた原子配置(右)。黄色とオレンジ色の原子はすべてゲルマニウム原子だが、真空側に突出したものを大きな黄色で示している