バスやトラックの事故が起こる度に、話題になるのがドライバーの勤務形態や健康状態。そんな運送業界を健康面からサポートできるソリューションがある。

東芝情報システムでは、運輸事業者向けに「日常健康見守りサービス」を提供している。日常健康見守りサービスとは、活動量計などを活用し、乗務員のバイタルデータをクラウド上に集約することで、日常の健康状態を把握するソリューションだ。

「日常健康見守りサービス」活用イメージ

乗務員はまず、活動量計を使用し、睡眠時間などを計測する。出勤後、血圧や体温を測り、それらの測定データを収集する「健康見守り端末」へ転送する。これらの機能で集めたバイタル(睡眠、血圧、体温)は、過去の経過と合わせてグラフで確認できる。

点呼前などに、体調に関する設問に答える「体調確認」機能も搭載。チェック項目は、国土交通省「事業用自動車の運転者の健康管理マニュアル」に沿った内容になっている。これらの機能を活用することで、乗務員の健康状態を日常的に把握できるようになるという。

きっかけは乗業員が立て続けに亡くなったこと

今回は、「日常健康見守りサービス」を活用し、乗務員の健康管理に励んでいる中日臨海バスに導入の経緯などを伺った。中日臨海バスは、三重県・大阪府・神奈川県・東京都・千葉県に拠点を置くバス会社だ。なぜ、「日常健康見守りサービス」を導入したのだろうか。そのきっかけは、立て続けに乗務員が亡くなったことだという。

代表取締役の森川道博氏

同社では、以前から乗務員を対象に年2回の健康診断を実施し、健康状態の把握や改善に努めてきた。また、定期的に簡易脳ドック(MRI/MRA)、睡眠時無呼吸症候群(SAS)検査も実施してきた。しかし、こうした対策を取っていたにも関わらず、過去5年間で3名もの乗務員が脳疾患や心臓疾患で突然死する事態に見舞われた。幸い、乗務中の事故でなかったが、「もし、走行中に意識を失っていたら」と考えると、乗客を危険に晒すことにもなる。これらの教訓から、乗務員の健康状態も業務の一環として真剣に考えるようになったという。

「しかし、いくら健康診断を強化したところで、受診してから1カ月程度経たないと結果が分からない。その間に、もしものことが起こるかもしれない。ならば、日常的に健康状態が把握できたら良いと考えた」と代表取締役の森川道博氏は話す。

「日常健康見守りサービス」を導入することで、日々の健康状態が把握できるようになった。乗務前の点呼時に健康状態を把握できることで、安心して業務を任せられることと同時に、乗務員自身の意識も変わったという。

同サービスと合わせて、管理栄養士を社員として常駐させ、乗務員の健康状態の改善にも取り組んでいる。面談やLINEなどを通して、食事の指導を積極的に行っており、「自主的に運動や食事改善を行う雰囲気作りもできてきた」と話す。

乗務員の意識に働きかける

取締役営業本部長の荻野進氏

バスの乗務員は勤務シフトが不規則なため、一般的に生活習慣が乱れやすいという。従来までは、日々の健康は企業の責任外といった風潮もあったが、乗務員の健康に対して積極的な改善を行うことで、乗務員の健康管理に積極的な企業というイメージも持たれるだろう。それは、バス利用者から「安心なバス会社」と選ばれると同時に、新たな乗務員の雇用にも繋がるのではと取締役営業本部長の荻野進氏は話していた。

また、今後の取り組みとして、健康状態が基準に達していれば、乗務員の採用年齢を引き上げることも考えているという。つまり、健康状態が良くなれば、企業と乗務員の両方にメリットがあるのだ。行政に対しても、運輸業界の安全対策や基準改定を働き掛け、業界全体が安全・安心に働けるようにしていきたいと話していた。